
―日本のCSRは、これまでどのような歩みを経てきたのでしょうか。
安藤 90年代後半から公害など環境問題をきっかけに注目され始めましたが、2000年代に入ってからは、それに限らず幅広く「企業の社会的責任」が問われるようになりました。10年にはISO(国際標準化機構)から国際規格「ISO26000」が発行され、初めてCSRの国際的な定義が生まれました。
そして11年、東日本大震災によって、個人から企業まで日本中で社会貢献への機運が高まり、企業もCSRに本腰を入れるようになった。その後、15年に国連で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」が軸となり、政府の後押しもあってCSR活動の射程範囲が大きく広がったのです。
―日本におけるCSRの現状をどう見ますか。
安藤 CSR元年といわれる03年頃から、大企業を中心に積極的に取り組む会社が増えました。現在は機関投資家などのステークホルダーが、企業をCSRの観点から評価するようになり始めています。特に環境、社会、企業統治に配慮する企業を選別して行うESG投資は、典型的な例。CSRへの対応いかんが、企業価値の向上に直接結びつくようになったのです。
CSRコンサルタント
一般社団法人 CSRコミュニケーション協会代表理事
特に昨今は、CSRに取り組む際の基準の一つとして、SDGsに注目が集まっていますね。「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」といった17の具体的な目標が取り上げられていますが、何より画期的なのは「持続可能な"開発"目標」と銘打たれたこと。
国連が、SDGsが企業にもたらす経済的リターンを公に認めたことで、CSRとビジネスが直接結び付けられるようになり、企業もよりポジティブに取り組めるようになりました。
―企業がCSRに取り組むメリットとは何でしょうか。
安藤 ビジネスの競争環境が激化する中、競争優位に立つための方法論として、CSRを活用できます。たとえば、ダイバーシティ(多様性)やワークライフバランスを重視し、きちんと情報開示している企業は採用でかなり優位に立てる。
また具体的な経営戦略の中にSDGsを組み込むことで、CSRの観点からビジネス上のリスクを抽出・リスクマネジメントしたり、さらに新たなビジネスを生み出すときの基準がつくられていくでしょう。企業の信頼獲得において、CSRはすでに大きな役割を果たしているのです。
―自社の事業とCSRを、どう結びつければいいのでしょうか。
安藤 ビジネスの社会性を高めるか、またはCSR活動の一側面をビジネス化するかという2方向のアプローチがあります。まずは自社の事業活動そのものを改めて見つめ直すことから始めてみましょう。その中から、本業を通して社会貢献をしうるヒントが得られるはずです。
従前のCSRはとにかく自社の経済的・社会的メリットを狙って行われていましたが、これからはステークホルダーのためにCSRを推進する「ステークホルダーファースト」が主になると考えています。たとえば自社のサプライチェーンに連なる取引先についても、今一度事業内容を確認する必要があるでしょう。
いくら自社商品の環境負荷が低くても、取引先にそうでない会社があれば、批判は結果として自社に跳ね返ってくる。その点も忘れてはならないのです。
―CSRに関して企業側が抱える課題とは何でしょうか。
安藤 全体として、SDGsを始めとした国際的な枠組みが増え過ぎていることです。ビジネスは得てして、ルールをつくったところが勝つもの。大きなルールは、後々振り返ったときに初めて「あれが分岐点だったのか」と判明するのが常です。
CSRに関しても、欧米では今まさにルールづくりが進められていますが、一方日本の大企業を見るとやはり遅れをとっている。売上高1兆円を超えるような企業でも、CSRの専任担当者は数人と少ない組織もあり、これでは日々移り変わる世界のトレンドについていくことは不可能です。
また、情報開示の仕方も課題となっています。今はCSR活動を行うこと以上に、その事実を「どう世間に広めるか」が重要です。欧米をはじめ、世界の機関投資家がCSRを重視する傾向にある中で、情報開示の手法次第で企業評価が大きく変わってしまう。日本企業も恐れることなく、戦略の一部として検討する必要があるでしょう。
―経営者やビジネスパーソンには、どういった姿勢が必要でしょうか。
専門はCSR/サステナビリティ領域の経営戦略、情報開示、企業評価。
『CSRデジタルコミュニケーション入門』(インプレスR&D)、『この数字で世界経済のことが10倍わかる』(技術評論社)など著書多数
安藤 まずは、一人ひとりが当事者意識を持つことです。当然ながら、経営陣から現場に至るまで全員に「自分ゴト」の意識を持たせ、かつ継続するのは難しいことです。私も経営層向けのCSRレクチャーを行っていますが、やはりトップがリーダーシップを見せなければ、従業員は動きません。ステークホルダーにアピールするためにも、先頭に立ってCSRを牽引していく意識が必要でしょう。
一方で現場の従業員も、自分の仕事がCSRにつながっていることを意識すべきです。たとえば、社員の働き方を考える人事部の業務は非常にCSRと親和性が高い。
CSRというと一見、経済合理性とは距離があるように見えるかもしれませんが、事業そのものの社会性を考えることがその第一歩であり、本領です。今やCSRは経営課題の一つとなっていますから、会社全体でリテラシーを高めることが不可欠です。