失敗と成功の実践知に学ぶ「経営管理」 CFOエグゼクティブフォーラム
課題解決講演
改革の陰にひそむ時限爆弾のつぶし方
業績見通しや予実管理に残る曖昧文化とあきらめへの対策
クラウド型CPM(企業パフォーマンス管理)を提供するBOARDの篠原史信氏は、予算・フォーキャスティングが実績と乖離する理由について「正確な策定に必要な数字を各事業部門から集められない企業が多く、予算の責任の所在があいまいになっている」という見方を示した。その結果「いかに数字を集めるか、に関心が傾いて、本来の目的である数字の分析に手が回っていない」と指摘。大きな危機に対して早期に対策を講じ、影響を抑えるには、現場が数字を上げやすい環境やシステム構築が必要と訴えた。同社は、収集が必要な財務情報から、その根拠となる営業担当の訪問件数などの非財務情報まで一貫して管理するシステムを提供。「正しい数字が上がりにくい環境は、せっかくの改革の取り組みをつぶす時限爆弾になります」と、フォーキャスティングの重要性を訴えた。
特別講演II
テルモのグローバル化と
経理・財務部門のイノベーション
海外売上比率68%とグローバル化を進める医療機器製造販売、テルモの西端亮氏は、同社経理財務の変革について「工場の売上原価と平均売価の差を販社の粗利益とする『通算収支』をKPIに導入したことがカギになりました」と語った。従来は、本社・生産側と販社側が交渉で決めた移転価格と平均売価との差で粗利益を管理してきたが「連結ベースでは意味のない交渉に労力を取られる」と、グローバル化で生じた子会社の個別最適とグループの全体最適とのギャップの整合を図った。この結果、移転価格の税務リスク削減や、子会社が個別に管理していた余剰資金管理もグローバルな体制に円滑にシフトできた。「ビジネスの進化に合わせて経理財務部門も進化が必要。課題を見つけ、中長期的目標を設定するには経営、事業部門とのコミュニケーションが不可欠でした」と語った。
特別講演III
新時代のCFOのスチュワードシップ
‐持続的な企業価値向上をめざして‐
伊藤レポート委員でROE(自己資本利益率)8%目標を起草した一人であるエーザイの柳良平氏は、企業価値最大化をミッションとする同社CFOポリシーを紹介。世界の投資家が求めるROE平均水準のアンケート結果や、長期ではROE8%超でPBR(株価純資産倍率)が上昇するデータなどの根拠を示し、ROEが株主資本コストをどれだけ上回っているかを示す「エクイティスプレッド」が価値創造のKPIと述べた。その拡大には、ROE最大化、資本コスト最小化が必要と強調。バランスシートマネジメントによる最適な資本構成のための調整弁とする配当施策を示した。ROE最大化には、投資家へのESG価値訴求による企業価値向上も提起。人的資本を中心に「ESG、非財務価値を見える化して投資家に認められれば、日本企業の価値は倍増できるはず」と述べた。
ディスカッション
失敗と成功の実践知に学ぶ「経営管理」
〜経理財務・管理部門の意識改革と人材育成〜
PwCコンサルティングの森本朋敦氏がモデレーターを務め、登壇者4人がディスカッションした。遅れている財務、予算のIT化を進めるため、キリバの小松氏は「成功したお客様の事例を伝え、意義を理解してもらう。お客様同士で悩みを交換する場としてユーザー会も立ち上げる」と、取り組みを紹介。BOARDの篠原氏も「短期効果よりも、長期に小さな成功を積み重ねることの大切さを浸透させ、事業部側の指標も取り入れた継続的な取り組みが必要」と話した。変革期の財務人材のあり方について、テルモの西端氏は「現場のアクションが会計、財務、税務にどう影響するか、横串を刺して全体像を理解できるようになってほしい」。エーザイの柳氏は「正確な決算で企業価値を守ると同時に、財務・税務戦略で企業価値を創造することも使命。会社の常識が通じない社外に出る刺激も大切」と語った。