オフィス改革から始める新しい働き方 「戦略的オフィス移転」がマーケットの潮流
就業者の数が増加しオフィスビルの需要が高まる
─経営戦略の観点から、オフィス移転を考える企業が増えています。一方で、オフィスビル市場においては成熟感を指摘する声もあります。実際のところ、マーケットの潮流はどうなのでしょうか。
今関 一口で言えば、足元のニーズは依然として強いのが現状です。「貸し手市場」といえるほどで、適当な床があればすぐ埋まってしまいます。これに対して、「不動産マーケットの過熱感は2020年まで」という声もあるようですが、オフィス市場に関してはインバウンド(訪日外国人)需要などの影響は少なく、需要はまだひっ迫しそうです。
というのも、オフィスの需要は基本的にホワイトカラーの就業者数に左右されるからです。12年のころからのアベノミクスによる景気の拡大に併せて企業のニーズが高まり、現在はそれに応えるオフィスビルの竣工がちょうどまとまって形になってきているところです。
─少子高齢化にともなう労働力不足が指摘されています。オフィスの需要は伸び悩むのではないかという声もありますが、それにもかかわらず、雇用が増えているということでしょうか。
今関 そのとおりです。就業者の数が伸びています。働く方の数が増え、オフィスの需要が増えているのです。つまり、人口自体は変わりがなくても労働参加率が上昇し、就業者が増えています。具体的に見ると、大卒の新卒者の数が増えているというよりは、シニアと女性が多くの割合を占めているのが大きな特徴です。企業の業績がいいことに加えて、人手不足を受けて、企業が再雇用なども含めて多様な人材を採用するようになっているためです。
就業者数とは逆相関の関係にある、空室率も下がっています。企業側にとっては、計画的にオフィスを統合移転するというよりも、目先で当面の床を確保しないとオフィスの空きがないといった状況です。こういったことからも、ここ数年は、オフィスビルは供給過剰にはならないと考えています。
オフィスビル環境が働き方改革の取り組みを示す
─政府が働き方改革を推進しています。不動産のマーケットとの関連はあるのでしょうか。
今関 大きく関連があります。まず、オフィスの持つ意味が変わりつつあります。たとえば、働き方改革という流れの中で、在宅勤務、サテライトオフィスといった形で、柔軟性のある働き方を増やす動きがあります。また、オフィスにおけるIT化を推進し、ペーパーレスやフリーアドレスなどを導入して、コミュニケーションを取りやすい新しいタイプのオフィスも増えています。これも、働き方改革の一環です。
多くの企業では、オフィスの移転をきっかけに働き方改革を導入したいと考えるようです。どこまでやるかということが議論されますが、たとえば移転をきっかけに在宅勤務を導入するとなると、単にオフィスのレイアウトだけではなく、勤怠管理も問題になります。そのため総務部門だけでなく、人事部門、さらには経営者が関わるテーマと言えます。
─まさに経営戦略を実現するためにどのようなオフィスが最適かを検討する必要があるわけですね。
今関 特にここ数年顕著になっている動きとしては、オフィスのあり方が人材採用の成否すら決めるようになってきていることです。いわば「採用できるオフィス、採用に有利なオフィス」です。さらに最近では、働き方改革が企業の評価につながりつつあります。つまり、働きやすい会社でないと優れた人材が採用できない、あるいは優れた人材に長く勤めてもらえなくなっているのです。大げさでなく、働き方改革を推進するとともに、取り組みの様子を社内外に発信できないと企業の競争力を損なうまでになっています。特にIT系の企業などではその傾向が高まっています。
これまでのように、できるだけ省スペースでコストを抑えて机やイスを配置すればいいという視点だけでは労働市場のニーズに応えることができなくなっているのです。