世界的な企業「一つの行動」に注目すべき理由 小さな変化の力を侮るなかれ
「アパレル業界にとって、綿は非常に重要な素材です。現在、アパレル業界ではプレーヤーの数が増え、細分化が進んでいますが、今後もより良い綿を栽培し続けるためには、環境保護に尽力しなければならない。そのためには、人にも環境にもやさしい循環型のグローバル体制を築く必要があるのです」
そんな“循環型経済”を実現するために、同社では「2020サーキュラー・ファッションシステム・コミットメント」などアパレル業界全体の取り組みにも積極的に参画している。こうした取り組みを長年続けてきたことで、従業員の働き方や意識にも変化が出てきたという。
「たとえば、デザイナーは素材を選ぶ際、何を選べば環境への影響が少なくなるのか。いろいろなオプションを考えるようになりました。そうした意識が社内全体に広がり、デザイナーだけでなく、調達やロジスティクスなど多くの部門が一緒になって一つのゴールを目指すようになりました。社内のあらゆる部門が協力することで、日々、新たなプロジェクトのアイデアの芽が生まれているのです」
そんな全社で取り組む姿勢が浸透した結果、途上国の縫製工場で働く従業員に向けて、100%デジタルで給与を支払うといった取り組みもスタートしている。最新のデジタルトレンドを取り入れることで、途上国の従業員の生活環境を高めると同時に、業務の効率化にも貢献しているという。
「世界中に拠点を持つグローバル企業として、こうした小さな変化を一つひとつ起こしていくことが、結果として、世界を変革することにつながっていくと考えています」
グループの中核GAPのプロジェクトを世界へ
現在、同社では世界中のGAP店舗で「GAP FOR GOOD」というプロジェクトに取り組んでいる。「GAP FOR GOOD」とは、地球にとってより良いプロダクトをつくるためのプロジェクトだ。
「GAPはこのプロジェクトを通じて、デニムの製造過程で使われる工場用水のリサイクルを始めました。また、P.A.C.E.と呼ばれる、私たちの洋服をつくる工場で働く女性のための、生活に必要な教育やトレーニングプログラムのサポートもしています。私たちの会社では、デザイナー、マーケティングほか、すべての従業員がサスティナビリティ活動に取り組んでいます。
それは社会的課題の解決は、企業としての責任であると考えているからです。かつてはサスティナビリティの取り組みを行っている会社も少なく、もしやっていても社内の一部の人が担当しているというイメージでした。しかし、いまはそんな時代ではありません。マネジメント層も積極的に関与することで、社内外でコラボレーションを生みやすくなっているのです」
では、こうしたサスティナビリティの取り組みを成功させる秘訣とは何だろうか。それは活動の枠組みを決めた後、いかに社内外のステークホルダーを巻き込んで、実行していくかがポイントになるとヘイヤー氏は言う。
「サスティナビリティの実現は、一つの企業だけではなく、業界全体で取り組まなければなりません。一つの企業だけではアイデアも限られてしまいますし、思うような結果を得ることもできません。だからこそ、競合他社や、NGO、大学などと協力してプロジェクトを進める必要があるのです。私たちはグローバル企業の社会的責任として、今後も多くの方々とともに、この取り組みを広げていきたい。そう考えています」