机の中の「冬眠人脈」が120億を握っている 実は「名刺」で差がつく負け組・勝ち組
IoTやAI、ビッグデータなどの最新技術が深化し、ビジネスの場でもスピード感が日に日に増す今日。そうした中で、あらためて重視されているのがFace to Faceのコミュニケーションだ。
その第一歩になるのは、誰もが持っている「名刺」。しかし、日々手元にたまっていくたくさんの名刺を「しっかり活用できている」と胸を張って言えるビジネスパーソンは多くないのではないだろうか。
では名刺を、そしてFace to Faceのコミュニケーションを、ビジネスの場でどう生かせばいいのか。新進気鋭の経営学者で、経営戦略に詳しい慶應義塾大学総合政策学部准教授の琴坂将広氏は次のように語る。
「そもそも名刺の果たしている役割は、互いの名前を認識し合うこと、そして名刺交換の儀式を通じて『相手との最初の関係性をつくる』ことにあります。しかし、それだけで終わってはいけない。一番大事なのは、名刺の情報を整理し、自分の“引き出し”に蓄積していくことで、ビジネスを可視化することにあるのです」
この人とは知り合いだ、あの人には前に会ったことがある――。自分の記憶と名刺でつくった人脈のデータベースをひもづけて、「そういえば、この分野にはこんな人がいたな」と思い出す。そしてそこからビジネスの種が生まれ、また新たな人とつながっていく。それが名刺の本来の役割だ。
平均で、年間106枚の名刺を交換している
「もともと日本では海外と比べて、名刺が重視されてきました。日本のビジネスには、当事者同士が対面で会い、相手の本気度合いやモチベーションを確認してからビジネスの本題に入るという一定の儀礼が存在します。名刺はまさにそのきっかけをつくるもの。特に今はSNS全盛の時代だからこそ、むしろ名刺の価値は高まっているといえるでしょう」(琴坂氏)
実際、最新の調査では、ビジネスパーソン1人当たり年間で平均106枚ほど名刺を扱っており、また名刺1枚当たりには約74万円(売上換算)の価値があるとされる(2018年8月、Sansan調べ)。
しかし名刺は、一度交換されてしまうと各自の机の引き出しにしまわれ、そのまま眠ってしまっていることがほとんどだ。この、いわば「冬眠人脈」を活用してビジネスにつなげるにはどうすればいいのか。
琴坂氏は「人脈を管理して、自分の資産にしていくという意識が重要。まずは基本に立ち戻ることです。現状では名刺交換したことに満足して、その後にするべきことを考えられていない人が多く、まるで手段が目的化しているように見えます」と警鐘を鳴らす。
名刺を資産に変えていくために、経営戦略上必要な発想が「名刺を社内で共有する」ことだ。人脈は、敏腕営業パーソンなど社内でも特定の人に集中しがち。これを独り占めさせず社内で共有することで各自のパフォーマンスを底上げし、全体の利益を上げられるのである。