各大学は今、受験生から選ばれる大学、社会に貢献できる高等教育機関を目指して、その魅力を競っている。
学部・学科の新増設は、そうした取り組みの表れの一つと見ることができるだろう。
大手予備校で大学情報や教務の仕事に携わってきた経験から、今の動向を「まじめに教育の本質に取り組む大学が評価される時代が来た」と見ている高等教育総合研究所・代表取締役の亀井信明氏に、改革を進める大学の動向や、受験生・保護者が見定めるべき魅力について話を伺った。
減少する大学入学者数
医療・保育系新設が加速
――今、大学が置かれている状況をどのように見ていますか。
代表取締役 亀井 信明
1950年、広島県生まれ。大手予備校「河合塾」において主に大学情報と教務関係の仕事に携わり、教務本部長や東京GA本部長を歴任。2001年に高等教育総合研究所を設立、代表取締役を務める。TV、新聞、月刊誌、週刊誌などでの執筆・提言多数。著書『親と子の大学入試』(中央公論社共著)『大学選びをはじめからていねいに』(東進ブックス共著)
亀井 日本社会の少子高齢化に伴って、大学進学者は大きく減っています。大学入学年齢に達する18歳人口は、ピークである1990年代初頭の200万人強から、約20年で60%程度まで減少しましたが、しばらくは120万人前後で横ばいに推移します。ところが、2019年ごろから再び減少に転じ、2024年度には106万人となり、約13万人減少する見込みです。四年制大学進学率は約50%ですから、約60万人の大学進学者の10%、約6万人がいなくなる計算です。ところが、30数万人が入学する国公立大学や有名私立大型大学は定員割れを起こすことはまずありません。つまり、残り20数万人が入学する中小規模の大学を中心に、入学者減少の影響が集中して表われることになるわけで、こうした大学には特に大変な事態と言えるでしょう。
――そんな厳しい環境の中で、大学はどんな取り組みをしていますか。
亀井 すでに経営体力のある大型大学は大胆な手を打っています。一方、医療系に縁のなかった文系女子大を中心に近年、医療系をはじめとした学部の新設が目立っています。背景には、正規雇用が限られる、厳しい就職状況があります。受験生、特にその保護者にとっては、就職が安定していることが大学選択の重要な基準です。
大学側も、就職は大学の評価ポイントと理解しています。また、文部科学省も最近は学部の設置認可申請に当たって、第三者機関によるデータに裏付けられた募集や就職の見通しの説明を求めるようになっています。そのため、新増設される学部は、高齢化に伴って今後も高いニーズが予想される看護、理学療法、管理栄養士などの医療・保健系、待機児童ゼロ目標で不足する保育士など、入口・出口を見通せる資格系分野に集中しているのです。
地域との連携、
面倒見が中小大学の強み
――中小規模の大学は、どんな方向に進んでいるのでしょう。
亀井 文科省が昨年公表した大学改革実行プランでは、地方の中小規模大学を意識して、大学が地域に必要とされる人材を養成し、地域の課題解決へ協力するなど、地域貢献を強める「センター・オブ・コミュニティ(COC)構想」を掲げています。
産業界が求めるコミュニケーション能力や主体性は座学ではなかなか身に付きません。米国では、企業での実習を大学側が管理して、単位認定も行うコープ教育が行われていますが、日本のインターンシップ制度は貧弱です。COC構想では、大学が地元の行政や企業と連携することで、教員と学生の力で地域課題解決に積極的に関与するアクティブ・ラーニングが可能になるかもしれません。
――中小規模大学ならではの長所はありませんか。
亀井 今の受験生の志望校選定には親の意向も強く反映される傾向があり、就職実績や面倒見の良さが重要な大学の魅力になっています。地元企業と良好な関係を築き、就職に強さを発揮する、一人ひとりの学生のしつけも含めた面倒見の良さで、高い評価を得ている大学もあります。ただ「面倒見の良さ」を訴える中小大学は多いので、受験生側は、退学率や具体的取り組み内容をしっかり吟味することが大事でしょう。
大きな変化の時代には
思い切った改革を
――グローバル化への対応も大学の課題ですね。
亀井 大規模有名大学は、もっと多くの留学生を呼び込む世界戦略が必須です。そのためには、アルバイトの斡旋など、きめ細かい留学生支援の提供が不可欠でしょう。中堅や小規模大学もグローバル化の影響から逃れることはできません。アジアをはじめグローバルな労働力と競って就職を勝ち取らなければならない時代がやがてやって来ます。週2~3時間の英語教育で英語での交渉ができるようなレベルの語学力が身に付くはずはありません。ネーティブスピーカーによる授業や留学制度の充実、地域の外資系企業との連携など、本気でグローバル化対応に取り組む必要があります。
――厳しさを増す環境の中で、大学は変化を求められているのですね。
亀井 入学者の減少による大学淘汰の時代を乗り切るために、大学は学部新増設を行うとともに、併せて思い切った改革に取り組まなければなりません。低コスト留学のために、韓国が先行しているフィリピンなどへの英語留学システムの開発などを考えるのも一案でしょう。大学の学費はどこもあまり変わりませんが、たとえばネット授業を活用してコストパフォーマンスに優れた大学という道もあるはずです。卒業後の就職先としてアジア諸国を視野に入れる大学など、これまでの大学に見られなかった動きも出てきています。ランキングだけでなく、社会に求められる人材を輩出するという高等教育の本質に真剣に向き合った個性的な取り組みが評価されることで、大学側としても、取り組みがいのある面白い時代になってきたと言えるでしょう。受験生も、大学の魅力、真摯な姿勢を見抜く目を養って欲しいと思います。