住まいの環境によって異なる健康寿命 次の住まいのキーワードは「健康に良い家」

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このように住まいの断熱性、つまり室温と人の健康とは密接な関係にあり、イギリスでは健康政策の一環で、「冬の室温は18度以上」と定めているほどです。一方、日本における断熱住宅の普及率(※2)は約25%にとどまっています。しかし、2020年には住宅事業者などに対し、建物の断熱性能の基準を定めた「省エネ基準」の義務化が予定されているため、今後は日本でも断熱性能を重視した家づくりが進められていくでしょう。

住まいの断熱性能向上で
どういった調査結果がでているのか

―住まいの断熱性能と健康との関係について、現在、どんな研究が進められているのでしょうか?

伊香賀 さまざまな研究が進行中ですが、国土交通省主導のスマートウェルネス住宅等推進事業というのがあります。14年にスタートし、1800軒を超える住宅を対象に、断熱改修前と後で、居住者の健康にどんな変化があるのか、調査・検証するものです。私も調査委員会の幹事として、全国の医学・建築環境工学の学識者と協働し、取り組んでいます。

―この国交省の調査・検証では、これまでにどのような知見が得られているのですか?

伊香賀 住宅の断熱化は健康に良い影響があることがわかってきました。たとえば、血圧。断熱改修後、起床時の居間室温が平均2.5度暖かくなった場合には起床時の血圧に平均2.8mmHgの低下が見られました。小さな変化に見えるかもしれませんが、人の健康全体で考えると、小さくはありません。厚生労働省が推進する国民の健康づくり運動「健康日本21(第2次)」の高血圧改善の目標値(起床時)は平均約4mmHgの低下。断熱性能向上で血圧が2.8mmHg下がり、さらに食生活の改善や運動などを実行すれば、目標値を上回る血圧の改善につながる可能性があります。

断熱化で部屋が暖かくなるうえ、結露によるダニ・カビの発生を抑制し、換気がよくなって空気が清浄化されるので血圧以外にもさまざまな症状が改善したというデータも得られています。興味深いのは、就寝前の居間の室温が上昇したことで、夜間頻尿の回数が減ったという調査結果です。夜、トイレに起きる回数が減ることは、睡眠の質の向上につながります。また足腰の弱くなった高齢者の場合には、夜のトイレへ向かう際に転倒のリスクが伴うので、転んで骨折して寝たきりになるという事態を防ぐことになるといえます。

良い住まい環境で生活の質の向上を

―住まいの断熱性向上は、介護予防にもつながるわけですね。

伊香賀 大阪の千里ニュータウンで行った調査では、寒い家に住む人に比べ、暖かい家に住む人の健康寿命が4歳も長いことがわかりました。健康状態に問題が発生して要介護認定を受けると、1世帯当たり、平均で年間80万円程度の負担がかかるといわれています。つまり、4年間、健康で介護いらずの状態であれば約320万円の節約ができ、経済的なメリットがあるわけです。なにより、自分自身が長く健康でいられるのは幸せなことです。周りに介護の苦労をかけずに暮らせれば、家族も幸せです。今後の人生における生活の質向上のために、次の住まいでは断熱性能を重視するといいでしょう。

※1 国立環境研究所 全国19都市の熱中症患者情報(2016)
※2 総務省「平成25年住宅・土地統計調査」の二重サッシ又は複層ガラスの窓のある住宅の数