デジタルテクノロジーで企業はどう変わる? ビジネス現場は劇的に変わる、働き方最前線

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そこに活用できるのがICT。最も簡単な方法は、パソコンの電源のオン・オフで労働時間を把握すること。最近ではウエアラブルセンサーを使って従業員の行動やコミュニケーションを把握することも可能になっています。また、書類がすべて紙だった時代はアウトプットの把握が困難だったのですが、メールや資料をクラウドに置くなど業務のデジタル化により、誰もが情報にアクセスでき、情報共有もスムーズにできるようになりました。プロセスも成果も「見える化」するだけで人の意識は大きく変わります。さらに可視化することで無駄な業務の棚卸しも可能になりますから、仕事の仕方の見直しもできる。ICTは生産性向上に非常に効果的と言えるのです。

―欧米に比べて日本はICTの活用が遅れているといわれています。

1960年東京生まれ。84年東京大学理学部数学科卒業。オックスフォード大学D.Phil.(経済学博士)。経済企画庁調査局内国調査第一課課長補佐、OECD経済局エコノミスト、日本銀行金融研究所研究員、経済産業研究所上席研究員を経て、2012年より現職。経済産業研究所プログラム・ディレクターを兼務。内閣府規制改革会議委員(雇用ワーキンググループ座長)(2013~16年)などを歴任

 それは単に欧米ほど必要に迫られていなかったからだと思います。個室型オフィスが主流の欧米に比べ、日本のオフィスは大部屋・固定型なので密なコミュニケーションが取りやすく、さらに長期雇用システムのおかげで「あうんの呼吸」で仕事ができる環境があり、人力だけでも情報共有やコミュニケーションがある程度できたのです。そのぶん長時間労働が当たり前の環境でしたが。そのため、ICTの活用が遅れたのは確かですが、長時間労働の抑制や生産性向上が迫られる中、積極的にICTを活用する企業も増えています。

最近、面白いと思ったのが、銀行で「QCサークル」という同じ職場内で品質管理活動を自発的に小グループで行う活動を指す言葉を使い出したことです。日本の生産現場における生産性の高さは世界に誇るものですが、その現場で使われてきた言葉が銀行でも出てきたということはまさに生産性に対する意識に大きな変化が起こっているということでしょう。

―ICTを活用するうえで注意点はありますか?

 インプットもアウトプットもすべて可視化されるということは、プライバシーの問題にかかわってくることも考えられます。生産性とプライバシーの折り合いをどう考えていくのか。今後、議論されるべきことだと思います。ただICT活用の流れは変わりませんし、今まで以上に公私の切り分けが必要となってくるでしょう。ICTを導入しても、休みの日でも連絡できてしまう環境だと結局のところ長時間労働を助長してしまいます。休む時は休めるよう、企業側もその職場に合った環境を考え、公私の区分をはっきりつけることが可能なICT導入が重要と言えます。

―ICTは働き方、労働環境、企業すべてを変えていきそうです。

 ICTの活用で大きく変わるのが、場所・時間を選ばずに仕事ができることです。すでに紙を廃止して情報伝達をすべてデジタル化している企業もありますが、そうすることで従業員はパソコンやスマホなどを持てば、好きな場所を選んで仕事をする「フリーアドレス」という働き方も可能になる。オフィス内だけでなく、カフェや自宅でも仕事ができるようになり、それはまさに政府が推進しているテレワークそのものです。これまで労働参加が難しかった育児・介護中の人も含めてICTでみんなが職場にいるような環境が作れれば、生産性も高まり多様な人材、優秀な人材を採用することもできるのです。

こうしたICTによる場所を問わない小まめなコミュニケーションを普段から行うことで、ときどき直接会ってコミュニケーションを図る会議のような場が今以上の価値を持つようになるでしょう。アイデアとアイデアがぶつかって化学反応を起こし、より創造的な仕事を生み出す可能性も高まります。ICTの活用で働き方が変われば、イノベーションを起こすチャンスにもなり得るのです。