村上龍シリーズエッセイ「独創性とは何か」

世界中の森を愛する人に与える希望とは?

道具袋を腰に巻いた初老の人に手を引かれて森を抜け出し、家に戻ったのだった。

「この子は、変わっとる、その人が言うた。たいていの子は、薄暗い森が怖くて、泣くもんやけど、この子は、なんか、考え事でもしとる感じで、ただ歩いていたって」

森で迷子になったとき何か考えていたのか、記憶にない。だが、太古の昔から、夜の闇に包まれた森は、怖くもあり、また魅惑的でもあった。森は人々に畏敬の念を抱かせ、安堵と不安の両方を与えた。森はいろいろな国の民話の宝庫でもある。想像力を育む。そして、想像力は、独創性の源泉である。

考え続けるという意志

独創性とは何か。このシリーズエッセイのテーマだが、独創性には、「考え続けるという意志」が含まれると思う。たとえば、エプソンのインクジェットプリンターの開発の歴史がそのことを証明している。レーザープリンターと比べると、インクジェットは、構造そのものははるかにシンプルだ。できる限り小さな噴出口から、できる限り短い時間に、できる限り多数の、できる限り正確に制御され、できる限り鮮明なドットを打ち出す。エプソンはそのことに挑戦し続けてきた。

省電力化への永遠なる挑戦

現在では、指先でかろうじてそっとつまめるような極小のチップに、ほとんど視認できない1000個の吐出孔が整然と並び、正確な制御のもと、一秒間に五万発のインクが打ち出される。人間の五感ではイメージできない世界だ。

ところで、レーザープリンターだが、印刷されたばかりの紙は熱を持っている。できたてほやほやという感じだが、その熱は、だいたい120~180度、トナーを用紙に定着させるために生まれるらしい。インクジェットはインクを吐出させるだけなので、印字の過程で熱は発生しない。構造的に、インクジェットでは、圧倒的な省電力が可能なのだ。

十年ほど前、自宅を新築するとき、南向きの屋根全面にソーラーパネルを設置した。環境保全とか、大げさに考えたわけではなく、ごく自然に、決めた。省エネは、実感しづらい。ただ、陽光に映えるパネルは、見ていてきれいだし、気持ちがいい。

わたしたちは、たとえばプリンターについて考えるとき、機能や価格だけではなく、ごく自然に、環境への負荷も考えるべきなのだろう。実際に、今はすでに、企業価値を測るうえで、事業利益や売り上げや利益率だけではなく、省電力化を実現しているかどうかなど環境配慮姿勢に関しても、重要な判断材料のひとつとなっている。

エプソンは、歴史的に培われた精密技術を、考え続けるという意志によって進化させ、インクジェットプリンターに代表される、あらゆる領域で省電力化を実現しつつあり、結果的に、世界中の、森を愛する人々に希望を与えようとしている。

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