医薬品の安定供給を支えるマルチプレーヤー 災害時の対応力を磨く医薬品卸の役割とは?

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従来、大きな災害の発生時には、被災地の医薬品の需要を地域の自治体などが取りまとめて供給するといった方法も検討されていた。だが、救援物資が避難所などに山積みにされ手つかずになっているケースにも見られるように、混乱状況の中、物資や医薬品を集めるだけでは必要な人のもとに迅速に届けるのは困難だ。こうした事情もあり、厚生労働省は、東日本大震災における医薬品の供給についての教訓として「医薬品物流・通信の完成されたシステムを有すること、通常0.5カ月程度の流通在庫を有していること、地域の医療機関等の所在地(中略)等の事情を日頃から熟知することなどにおいて、他のいかなる供給方法よりも卸ルートが優位に立つ。卸の機能やネットワークが基本的に維持されている限り、 災害時といえども、中央集権ではなく卸ルートのほうが迅速かつ効率的である」とまとめている。まさに医薬品卸企業が、社会にとって欠かせない存在であると評価されたとも言えるだろう。

医薬品卸企業は、災害時のような緊急事態も含め、つねに医薬品を安全・安定的に供給しなければならない。そのため、事業継続に対する取り組みは重要な意味を持つ。物流倉庫の新設もその一つ。時には、ライバル企業から医薬品の供給を受けることもあるという。

前述したように、日本の医薬品は配送先数や配送回数が多いうえ、価格交渉や情報収集・提供など、多彩な機能が求められている。しかも、取り扱う医薬品の種類は増える一方だ。種類だけではない。高度な医薬品の登場などによって、管理する温度帯も複雑化している。だが、間違いが許されないのが医薬品卸の世界。多種多様な医薬品それぞれに最適な状態で管理するために設備投資にも余念がない。

あわせて、業務の効率化などによる生産性向上策を積極的に進めている。MSがノートパソコンやモバイル端末など使って効率的に情報提供をしたり受発注管理を行ったりしているのもその一つだ。ICTを活用した在庫の適正化、ロボットを使った自動倉庫、トラックなどロジスティクスを見直し、無駄の削減に取り組むところもある。

最近になって、医薬品の安全・安心への関心の高まりから、医薬品のトレーサビリティの確保が大きなテーマになっている。その実現のためには医薬品卸企業の取り組みが不可欠になる。

病気やケガで病院に行った際、医薬品を処方された経験があるだろう。しかも、北は北海道から南は沖縄まで、必要な時に必要な医薬品を手に入れられる環境が用意されている。これは決して当たり前のことではなく、医薬品卸企業の存在を抜きにしてはなし得ないことだ。変容する経営環境に対応しながら医薬品の安全・安定供給という社会的責任を担う存在として、医薬品卸企業の役割に注目だ。