医薬品の安定供給を支えるマルチプレーヤー 災害時の対応力を磨く医薬品卸の役割とは?
世界でも有数の地震大国である日本。大規模な災害時に重要となるのが、医薬品の供給だ。そして、その安定供給を担っているプレーヤーの一人が医薬品卸企業である。全国各地に広がったネットワークを駆使して患者のために医療機関や薬局へ医薬品を届ける。その姿は医療機関の陰に隠れて見えにくく、黒子のような存在になりがちだ。しかし、確実に必要な場所に必要な医薬品を届けるために、多彩な取り組みを進めている。
日本全国に流通している医療用医薬品(医師の処方箋に基づいて調剤してもらう医薬品)は1万数千種類。これを日本全国の病院や診療所、薬局など約16万カ所に届けているのが医薬品卸企業だ。
欧米にも医薬品卸企業は存在するが、医薬品流通情報の収集やコンサルティングサービスを提供しているエンサイスの資料によると、日常的に配送している先は米国約7万カ所、英国約1万8000カ所、ドイツ約2万1000カ所となっており、日本の医薬品卸企業の配送先数が突出している。しかも、米国や欧州の医薬品卸企業は受発注や在庫管理などに特化し、配送は外部の物流業者に委託するのが一般的だという。
一方、日本では、受発注や在庫管理はもとより、配送、価格交渉、情報収集・提供までを一貫して行うケースがほとんどだ。さらに、欧米では医薬品メーカーが直接病院や薬局などに医薬品を供給するルートも珍しくないが、日本では医療用医薬品市場約10兆円のうち、97%以上が医薬品卸企業を通じた供給になっている。こうした供給網は「毛細血管型流通」とも呼ばれている。
医薬品卸の供給網が、緊急事態に効果を発揮
2011年3月に発生した東日本大震災。交通、情報、生活インフラが遮断され、飲料水や食料品をはじめ、さまざまな商品の物流も滞る中、深刻な問題となったのが医薬品不足だ。東日本大震災では、救急医療活動に用いる医薬品はもとより、人工透析患者の治療に用いる透析液なども不足した。こうした中、医薬品卸企業のMS(マーケティング・スペシャリスト)と呼ばれる営業担当者は、自社のオフィスや倉庫などが被災したにもかかわらず、被災地を訪れて状況を確認し、必要な薬をかき集めて届けたという。懸命に治療にあたる医師や看護師らを陰ながら支えたのだ。
このように、緊急事態に医療機関の要請に応え医薬品を供給できたのは、日頃から医薬品卸企業が病院・薬局などと密接にかかわっているからだ。どういうことか。MSの多くは、どの病院・薬局でどのような薬がどれだけ使われているかを把握している。毎日のように医療機関を訪問し、医師や看護師、薬剤師などとコミュニケーションを図って情報を収集してきたからだ。