1976年東京大学経済学部卒業。三井住友銀行副頭取、
新関西国際空港社長兼CEOを経て、2016年6月より現職
クロスボーダーM&Aには保険の活用が不可欠
―今、M&A保険が注目されていますが、その背景には何があるのでしょう。
安藤 近年、クロスボーダーのM&Aが増加しています。バブル崩壊後は日本企業が外国企業に買われるケースが多かったのですが、今は成長戦略の一環として海外企業を買収する日本企業が増えています。人口減少時代に入り、日本国内マーケットには成長の限界があることや、新興国を中心に海外マーケットが拡大していることなどを考えると、この傾向は今後も続くとみていいでしょう。
実際のM&A締結にあたっては、短期間でリスクを分析し経営判断まで終えなければなりません。しかし、デューデリジェンスの期間は限られているうえ、必ずしもすべてを明らかにできるとは限りません。案件がクローズした後で、売り手企業の瑕疵が判明することは決して珍しくありません。
そういうリスクをカバーする一手段として、15~20年前にM&A保険が開発されるに至りました。企業からの期待は高まるばかりです。
和田 よく知られているのは、表明保証条項に保険をかける「表明保証保険」で、売り手企業が活用を希望することが多くあります。とくにプライベート・エクイティ・ファンドが売り手の場合などは、売却を早期に完了させて投資家に配当する必要があるため、M&A保険を使うケースが増えています。
安藤 M&Aでは、何が起きるかわからないといっても過言ではありません。表明保証違反があったとき、買い手・売り手間の交渉にもかなりの時間を要してしまい、利益を確定できない状態になりかねません。そういったリスクを、表明保証保険でヘッジするというのは非常に合理性のある考え方といえます。
サイバー、気候変動……ますます多様化するリスク
和田 M&A保険には表明保証保険のほかに、税務当局から異議申し立てを受けることによって生じるリスクを低減する「タックスライアビリティ保険」や、過去・現在・未来の訴訟リスクをカバーする「コンティンジェントライアビリティ保険」などもあります。
たとえば訴訟を抱えている企業を買うような場合には、賠償額がどうなるかわからないなど不確定要素が多々あります。
安藤 特に訴訟大国の米国では、このような場合にコンティンジェントライアビリティ保険を使うことが、有効な考え方として支持されているようですね。近年はサイバーリスクはもちろん、地球温暖化の影響で気候変動リスクも大きくなってきています。リスクが多様化・複雑化して、かつ規模が拡大しているのです。企業は、従来以上にリスクマネジメントに注力する必要があります。

リスクをゼロにすることは不可能ですが、最小化することは可能で、その一手段として保険があるのです。具体的な保険の選定・販売においても、今の時代はグローバルネットワークが重要になってきました。この意味で、世界中にネットワークを持つJLT社とのアライアンスは非常に意義深いものと考えています。さらにJLT社には、豊かな経験・ノウハウを持った人材が多くいて、さまざまな事情に精通していることも頼りにできる理由です。
和田 SMBC系の銀泉は日本最大級の保険代理店で、マーケットからの評価も高い。SMBCの強固な顧客基盤がありますから、アライアンスを組むには最適なパートナーだと確信しています。
安藤 M&Aにかかわる多様なニーズに、適切に応えていくのが当社の使命です。またサイバーマーケットも急速に拡大しており、企業が受ける攻撃は高度化とともに悪質化しています。情報が漏洩した時の損失補填はもちろん、たとえば工場の操業がストップした際にはかなり大きな被害が出る可能性もあります。
SMBCや当社と親しい三井住友海上火災保険では、中小企業向けに保険とセキュリティソフトをセットにした商品を提案するなど工夫を凝らしています。今は、経営トップのリスクマネジメント能力が強く問われる時代なのです。
発生しうるリスクを予見してソリューションを提供
和田 M&A保険の場合、保険会社は案件固有の免責事項を設定するのが一般的です。したがって、どこの保険会社のどの商品がもっとも適しているか、判断しなければなりません。
しかし一般の企業は、保険会社と対等に交渉できるほどには専門知識を持っていません。だからこそ、M&A保険には当社のような仲介事業者の役割が必要なのです。
代表取締役社長
ジー ランダル 和田
サンダーバード国際経営大学院卒業、MBA。
エーオンジャパン会長兼CEOを経て2012年より現職
安藤 保険会社の出す約款に対してマークアップし、過不足ない保証内容に調整する力が不可欠ですね。また、昨今のAIや自動運転等の技術革新に伴い、知的財産権の重要度は今後ますます高まると想定されます。特許庁および損害保険会社各社もこの分野の商品開発に注力しており、当社は三井住友海上火災保険が販売する知的財産関連の保険も取り扱っています。
日々変化し続けているリスクに迅速に対応し、時代に即した新しい保険を提供していく先進的な役割が当社に期待されています。十分なリスクヘッジをしているということは、その会社が安全だという評価にもつながり、信用度が高まります。実際に欧米では、リスク対策の充実した企業には低い金利が適用されるなどファイナンスとも不可分です。
これからの企業には、自社に発生しうるリスクをあらかじめ予見して、それを避けるために打つべき手を保険会社やブローカーとともに検討する必要があります。スムーズかつ安全なM&Aのために、保険会社が貢献できる余地は大きいと考えています。当社もSMBCグループとつねに連携して、お客さまの多様なニーズにしっかり応えていきたいと考えています。