英国EU離脱で企業の欧州戦略は変わるのか 日本企業の海外展開を支えるスイスの魅力
スイス大使館講演
ビジネス拠点としてのスイスの魅力
スイス大使館のマツケリ氏は、スイスのビジネス環境の魅力を説明した。スイスは、九州ほどの面積で人口840万人ながら、購買力が高く、新開発製品をテストして欧州諸国での成功を占う市場としても利用されている。また、行政に提出する書類等の負荷も低く、プロセス最適化の点でも優れていると強調した。
スイスは欧州の中心に位置し、経済規模が大きい仏独伊3国と国境を接する。高速道路・鉄道、航空等の交通インフラ、銀行等の金融インフラも充実。人材面でも世界トップクラスの競争力があり、多言語を話し、外国籍者が人口の23%を占めるなど国際性が高い。欧州最長レベルの労働時間、採用・解雇が柔軟にできる規制の少ない労働法など「総合的に見て労働コストも高くない」とした。政治体制も安定し、永世中立主義で国際機関本部が数多く立地、公的債務GDP比もOECD平均の半分以下と低い。法人税率は欧州最低レベルで、特に統括拠点の場合の税率は8〜12%程度になる。EU非加盟だが、自由貿易協定、二国間協定により、加盟国と同等の立場で市場参入できる。また、住居や学校など家族も質の高い生活を享受でき、日本企業を含む多数の企業、特に米企業の多くは欧州統括拠点をスイスに置く。また、多くの優れた研究者、世界的評価の高い研究機関、大学を擁し、最近では研究開発拠点を設ける企業も増えている。スイス大使館に置かれた貿易・投資促進機関、スイス・ビジネス・ハブ日本で「既に進出している企業、進出を考える企業のワンストップショップとしてサポートしたい」と語った。
進出企業講演
スイス:海外統括拠点に相応しい土地
日本たばこ産業(JT)の岡田有祐氏は、グループ海外たばこ事業を統括するJTインターナショナル(JTI)のスイス・ジュネーブ本社の役割や、立地の魅力を語った。JTは、国内市場縮小を見越し、加工食品事業、医薬事業への多角化と、たばこ事業の国際化を推進。1999年に米RJRIの米国を除く海外たばこ事業を買収してJTI社を設立し、RJRI本部があったジュネーブにJTI本社を置く。2007年には英ギャラハー社を買収。一連のM&Aで海外流通網とグローバルビジネスに精通した「人財」を獲得した。マーケット別と、機能別のマトリックス型組織を構築し、的確にガバナンスをしながら、買収先へ権限を委譲する経営をしてきた。
ギャラハー買収後もJTIは本社を引き続きジュネーブに置き、地理的に遠い北南米、中東・アフリカ等、アジア・パシフィックの担当以外の役員はジュネーブ本社に配置。ジュネーブに海外事業拠点を構えるメリットとして以下の6点を挙げた。欧州の中心に位置するジュネーブは、欧州を統括するには適したロケーションであること。充実した金融インフラがあること。アクセスが便利で治安も良いこと。言語・文化の多様性もあり、多様な国籍の役員、社員と家族にとって住みやすいこと。グローバル人財を現地で獲得しやすいこと。さらに、スイスには、国内や中東・アフリカ輸出向けの工場も設けているが、スイスは多くの投資協定や租税条約を締結していて、輸出スキームが組みやすいことにも言及。「スイスの土壌というベースの上に独自の経営システムをかけ算することで、ここまで成長できたと思う」と語った。