老舗こそ「創造的破壊」のリーダーとなる理由

化学素材産業の変革をリードするJSR

 池田 近年、急速に進化したデジタルテクノロジーによって実現できる新しいビジネスモデルが出てきました。そこには既存の企業だけでなく、外から入ってくる企業もありますし、スタートアップ企業が入ってきて一気に存在感を高めてもいます。そういうことがこの数年、いろいろな業界で起きていました。自動車産業はすり合わせ的なものづくりの産業なので、デジタライゼーションの影響を受けにくいと言われていましたが、今はEV化によって根本的に変わろうとしています。重工業もインダストリー4.0によって大きく変わろうとしています。デジタライゼーションの影響を最も受けにくいとみられていた素材産業も、大きなインパクトを受けています。IBMは2003年より定期的に「グローバル経営層スタディ」という、経営層の方へのインタビュー調査をグローバルで実施しており、業界ごとに創造的破壊がどれくらい起きているかというアンケートもとっているのですが、意外にも化学素材産業では、創造的破壊を意識している経営者が増えているのです。

量子コンピュータなど、最新テクノロジーのインパクト

小柴 私は半導体系のビジネスが長く、IBMともずいぶんコラボしてきました。今はIBMのリサーチ・フロンティア・インスティチュート(RFI)で量子コンピュータの応用に関する共同研究を行い、素材の新規開発にも取り組んでいます。最初は、人間の言語で会話し、意思決定を支援するというコグニティブ・コンピューティングの話を聞いてもピンときませんでした。しかし、その後、IBMワトソンの担当者の方達とディスカッションしているうちに、なるほどこれからの世界はこうなるのか、これは大変なインパクトがあるということがわかってきて、どこから手をつければいいのかずいぶんヒントをもらいました。当社が他社より早く変革に取り組んできたとしたら、そうした影響もあったと思います。

JSR 
代表取締役社長
小柴 満信

池田 今、特に注目されているテクノロジーは何ですか。

 小柴 私が注目しているのは今ちょっと触れた量子コンピューティングと、脳の構造を模倣した計算システムを構築するニューロモルフィック・デバイス、それから3Dプリンタといったところです。3Dプリンタのテクノロジーは製造業のあり方を根本から変えてしまう可能性があります。製造業とは縁のなかったプレイヤーが突然、製造業として登場してくる、そんなこともあるかもしれません。それこそ創造的破壊につながる動きです。

 池田 IBMはITに限らず、さまざまな技術についてグローバルで研究をしていて、そこから得られる知見をコンサルティングにも活用しています。そこがひとつ、IBMの強みだと思います。その強みを生かして、お客さまの変革を支援していく。そういう立ち位置で考えています。

 小柴 当社の場合、私が突っ走って、他の社員がついてくるのは大変だと思います(笑)。ただ、超高齢社会を迎える2025年以降、日本は大きな岐路に立ちます。そこまでの時間軸を見てどこにどれだけの資源を投入するか、トップの判断が問われるのだと思います。

変革には、潔く“やめる”判断も必要

池田 時代の変化に適応して、既存のビジネスから新しいビジネスにシフトしていかなければならないというとき、経営者としては同時に足元の利益も追求しなければならないですね。将来の変革に向けた投資と、どちらを追求すればいいのか、ともするとトレードオフの関係になります。そこを、将来の投資だと決めるのがトップの役割ですね。私たちIBMも大企業で、慣性に流されやすいところがあります。経営者や事業部門のトップが変革をしようとしても、その方向性についていこうとしない摩擦が生じることもあります。そこをどう乗り越えていくのかということは、多くの企業に共通する課題です。

日本IBM
執行役員
池田 和明

小柴 トップの仕事で重要なことの一つは、見込みのない事業をやめることです。当社は慶應義塾大学の医学部と共同研究をして、ライフサイエンスの新しい事業に取り組んでいます。今、化学業界で新しいものを探すことほど難しいものはありません。だから化学業界で新しいものを探すのはもうやめると決めて、これから取り組むのは生化学の分野にしました。そのほうがうまくいく確率ははるかに高いはずです。

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