海外で失敗する経営者は何が足りないか? 技術力・サービス力だけでは海外で勝てない

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どちらが正しいというものではなく、企業の方針によるでしょう。本来、ブランドのような方向性の幹となる部分は、海外進出や現地生産を開始する前にしっかりと定めておくべきことです。

経営者には、理念を浸透させる「覚悟」が必要

―海外に進出するにあたって、情報やデータの共有はどのように進めるべきでしょうか。

大石 ここで重要なのが、業務システムなどのITです。海外でのビジネスを成功させるための重要なポイントの一つはスピードです。海外で事業を立ち上げるような場合、迅速に事業を進めることが重要ですが、そのためにはクラウド型の業務システムの活用も選択肢になるでしょう。経営資源に限りのある中堅・中小企業でも導入しやすいと思われます。

パッケージソフトと比較したクラウドのメリットは、クラウド側で機能がつねに更新されることです。また、パッケージソフトは国によって異なる場合もありますが、クラウドなら現地法人や拠点間はもとより、親会社と子会社の関係でもシステムの一体化ができます。たとえば、ERP(基幹業務システム)では、商品が1つ売れたという販売実績データが、製造、物流、経理、人事などにも伝わり、本社はそれをリアルタイムに見ることができます。

大石 芳裕
/1952年佐賀県生まれ。明治大学経営学部教授
グローバル・マーケティング論担当。九州大学経済学部卒、九州大学大学院経済学研究科博士後期課程中退。佐賀大学経済学部専任講師・助教授、コロラド大学経営学部・大学院客員研究員を経て、97年より現職。グローバル・マーケティングの観点から、日本企業の国際競争力強化を研究・教育している。多数の講演のほか、企業内研修にも積極的に取り組む。主催する「グローバル・マーケティング研究会」は、大手企業の海外戦略を担った著名なキーマンを登壇させ、1時間の講演後に1時間の質疑応答が設定されるという独自の形態で人気を博し、2,300人を超える登録者数を誇る。『実践的グローバル・マーケティング (シリーズ・ケースで読み解く経営学)』(ミネルヴァ書房、2017年)など著書多数

むろん、クラウドだからといって、すべて安価で万能というわけではありません。初期投資は比較的少なく済みますが、導入後のランニングコストを忘れてはいけません。また、クラウドを使って自社が何をやりたいのかが明確になっていなければ、そのメリットを有効に生かすことはできません。

―ボリュームゾーンで戦っていくためには、人材の現地化も必要になりそうです。海外におけるガバナンス(企業統治)などはどう進めていけばいいでしょうか。

大石 現地化において「現地企業のトップには、日本人でなく現地の人材を置くべき」と認識している人が多いようですが、これは誤解です。というのも、現地化には「日本人か否か」ではなく、企業の経営理念や文化などが十分に浸透しているかどうかが大事だからです。経営陣を現地の人に切り替えた結果、不正が生じたり、経営が悪化したりした例も少なくありません。信頼して任せることと放任とは異なります。責任の権限を明確にし、現地の経営陣やスタッフがコア業務に力を注げる仕組みを作ることが大切です。前述したクラウド型の業務システムなども、そのための方策の一つになりえるでしょう。

このような取り組みは、組織作りや人材育成にも関係することであり、経営者自身のテーマになります。その点では、経営者の確固たる信念とリーダーシップ、さらに迅速な意思決定が企業の海外進出成功には不可欠です。

ただし、中堅・中小企業の経営者がこれらをすべて一人でやる必要はありません。日本貿易振興機構(JETRO)や中小企業庁のほか、各地の自治体、地方金融機関でも海外進出を目指す企業にさまざまな支援を行っています。こうした機関をうまく活用し、効率的・効果的な方法を探るといいでしょう。