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「深海」を舞台に世界と戦う、日本の勝算は? 水深4000m海底探査レースに挑む挑戦者たち

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  • Team KUROSHIO / ヤマハ発動機 制作:東洋経済企画広告制作チーム
いよいよ年明けからラウンド1が始まる。着々と準備が進むチームのメンバーに迫った(提供:Team KUROSHIO)

2017年7月、駿河湾でラウンド1に向けた海域試験が1週間にわたって行われた。衛星通信を介し、洋上中継器(ASV)を試験海域に移動させ、自律型海中ロボット(AUV)を潜航させての動作確認、通信試験、陸上でのデータ解析を実施したのである。「毎日、夜は全員でミーティングを行いました。得られた成果も多かったのですが、検討すべき課題が多く見つかったからです。その後も2018年1月に始まる予選、ラウンド1に向けて全員で調整を続けてきました。出るからには“勝ち”にこだわって、万全の態勢で臨むつもりです」。

ヤマハ発動機
進藤祐太

こう語るのは、「Team KUROSHIO」に参加するヤマハ発動機の進藤祐太氏だ。「Team KUROSHIO」とは、国の研究機関である海洋研究開発機構(JAMSTEC)や海上技術安全研究所、ヤマハ発動機など産学官の8機関が集まって結成された”オールジャパン”のチームである。現在、彼らは水深4000m海域における超広域高速海底マッピングを競うコンペ「Shell Ocean Discovery XPRISE(シェル・オーシャン・ディスカバリー・エックスプライズ)」に日本唯一のチームとして挑戦している(コンペの詳細は第1回目へ)。

チームのメンバー数は約30名、そのほとんどが20-30代だ。ヤマハ発動機でモーターサイクル(オートバイ)の設計を担当していた進藤氏は、2017年4月から神奈川県横須賀市にあるJAMSTEC内に拠点を構えて勤務している。現在はチームに参加する8機関からの情報の取りまとめや日程管理のほか、大会の主催者であるXプライズ財団との折衝など、チーム運営のためのあらゆるマネジメントを担当している。

レースに出るからには「勝利」をつかみたい

「ヤマハはバイク等で陸、無人ヘリやドローンで空、船や船外機等で海の事業を展開しています。これまでヤマハが事業領域としていた『海』は、海面付近の海でしたから、海中・海底についてはまったく知らない世界です。私自身、この現代において、いまだに海底の地形がほとんど解明されていないことを知って衝撃を受けました。これを機に海中・海底の専門家の中に飛び込んで、その世界をまずは知り、ネットワークを構築すること。そして、海中・海底の世界を知ることで、新しいビジネスチャンスが見つかったときには、このチームで構築したネットワークを活用していけるはずです。いま、そのスタート地点に立っていると思うと、とてもワクワクしています」と進藤氏は声をはずませる。

今回、ヤマハ発動機は、さまざまなかたちでチームのサポートにあたっている。ASVに取り付ける静粛性に優れた高性能な船外機を提供するほか、海外売上比率約9割という豊富な海外ネットワーク、ロジスティクスなどの事業基盤がチームの活動に貢献しているという。とはいえ進藤氏が、さまざまな分野の第一線で活躍する研究者、技術者たちをまとめ上げるのは簡単なことではないだろう。それぞれが、今回のコンペ以外にも仕事を多く抱える各組織のスタープレーヤーでもあるからだ。しかも進藤さんは、まだ30歳。チームの中でもかなりの若手である。

「私はマネジメントを担当していますが、チームの皆さんを『管理する』という気持ちはまったくありません。うまく皆さんの能力が活かされ、チームとして強くなるためには何をどうすればいいのかをつねに念頭におき、行動しています。それは、私がこれまで会社で部品を設計するときに考えていたことと同じです。部品を設計するためには、社内の各部門や取引先からの要望、指摘を取り入れながら機能・コスト・納期をバランス良く実現させることが必要になります。そのため関係者と協力しながら一つのものを作り上げていくことは得意なのです。それに今回は、これまで誰もやったことがないことに挑戦しています。その喜びが情熱となってチームの士気が高まっていますから、やりがいがあります」

チーム全体のマネジメントを担当する進藤氏(左)はメンバーの能力を最大限引き出せるようつねに気を配る(提供:Team KUROSHIO)

しかし、深海ならではの厳しさに頭を悩ませることも多いという。「まず、海での活動は天候が大きく影響します。そのせいで予定どおりに事が進まないのは日常茶飯事ですし、船酔いに苦しむメンバーも少なくありません。陸との違いで言えば、通信もしかりです。海中では音波を使って通信や測位を行いますが、音波は陸上の無線通信で使われる一般的な電波と比べると速度が遅く、通信できる情報量も少ない。そればかりか、雑音が多く、通信がうまくいかないこともザラにあります。さらに、海ではモノが簡単になくなってしまう。それはAUVなど高価な機材を扱うチームにとって、大きな懸念事項です。陸上ではモノは故障してもその場に留まりますが、海でモノが故障したりすれば、海底まで沈んだり潮流に流されてしまって、数千万、数億円もするモノがいとも簡単になくなってしまうのです。そういった海ならではの緊張感に鍛えられながら一つひとつ課題をクリアしてきました」。

コンペには、世界中の優秀な研究者や技術者が集まる。手強い相手も多い。進藤氏は「『Team KUROSHIO』はラウンド1を突破できるだけの実力があると自信を持っています。でも、油断せず、しっかり準備して確実に勝ち残りたいと考えています」と慎重な姿勢を見せる。さらに、その先に控える決勝に相当するラウンド2に向けた準備も同時に進めていかなければならないのも難しいところである。

「参加している他のチームは倒すべき『敵』ではなく、困難な課題に共に挑む同志だと思っています。とはいえ、私は子どものころからレースが好きで、レースが好きだからこそヤマハ発動機に入社しました。私にとっては、このコンペはある意味『レース』です。相手が手強くても、レースに出るからには勝利をつかみたい。あとは当日を迎えるだけ、『Team KUROSHIO』の姿を多くの方に見ていただきたいですね」

AUV開発のエキスパートが参加

もう一人、注目しておきたいメンバーがいる。海上技術安全研究所からチームに参加する横田早織氏だ。大学院では流体力学を研究。その知見をAUVに活かすことができないかと考え、2014年に入所した。同研究所では、自律型海中ロボット(AUV)開発研究グループに所属。AUVの開発・設計から製作に至るまでのマネジメントを担当しているエキスパートだ。このAUVこそが、今回のコンペで勝利をつかむカギを握っていると言っても過言ではない。

海上技術安全研究所
横田早織

「日本でAUVを所有するところは少なく、『研究所のAUVを使わせてほしい』と連絡があったときは面白いチャレンジ、私も挑戦してみたい!と真っ先に思いました。私がAUVを研究している理由は、世界最先端の研究に触れたいからです。いつか、その最先端を自ら提案できる研究者となるために、今回の挑戦は貴重な経験になると考えました。研究所も若手にさまざまな経験をさせることに積極的だったため、2017年1月からチームに参加させていただくことになりました。チームのメンバーも別のプロジェクトで、ご一緒した研究者が多く、心強いです」

こう語る横田氏は現在、同研究所が開発した「航行型AUV2号機」(以下、AUV2)をコンペに向けて改造するほか、その整備、運用を担当している。今回は、AUVの航行の妨げにならないよう配慮しながら、マッピングソナーやカメラなどを搭載しなければならない。AUVの部品は特殊なものが多く、必要な部品もなかなか入手できないため改造も一筋縄ではいかないという。

しかも、「実際にAUVを海に入れてみないとわからないことが多い」と横田氏は嘆く。「宇宙空間では理論どおりにいく場合が多いのですが、深海ではそうはいかない。海流や水圧と闘いながら、電波も通じない中でAUVを航行させなければなりません。たとえば、AUVは中性浮力を保ちながら潜航させるのですが、左右の重さが数百g違っただけでも沈んでしまうことがあります。海の塩分濃度などにも影響を受けるため、机上の計算どおりにいかないことが多いのです。もしコンペで不具合が発生した場合も、その場にあるもので対応するしかない。そうした準備も必要になってくるということです」。

ただ、AUV2は実績が豊富だ。もともとは研究目的で開発されたものだが、すでにほかのプロジェクトでも使用されている。通常、新しくAUVを製作すると、正常に作動するまで1年以上の調整が必要になるが、今回は”ベテラン”とも言えるAUV2を投入するため、アクシデントが起こる確率は限りなく低いという。

「AUVは自分の子どものような存在」と話す横田氏。その実力にも自信たっぷりだ

「日本の優位性は、世界の最新トレンドを実現していることです。すでに複数のAUVを、母船を使わずに運用し、協調行動もできるようになっています。日本は昔からAUVの研究をしてきましたが、予算の関係もあり、一時は縮小を余儀なくされました。しかし、近年AUVの研究が活発化してきたことで、世界のトレンドに追い付くことができるようになりました。日本のAUVはまだ商業化されていないため、世界の競合相手も日本の動きをチェックできていません。今回、私たちの技術力を見て、欧米勢も驚くに違いありません」(横田氏)。

いまのところAUV2の課題は、存在しないレベルにあるという。つまり、準備は万端だということだろう。コンペで、AUVの性能を最大限に引き出すのが横田氏の最後の仕事だ。

「チームは若手が多く、雰囲気もいい。会議でもいろんな意見が出ます。時には奇抜なアイデアが出て、『本当にこれやるの?』と思うこともあります(笑)。でも、そこから新しい発見がいくつも生まれた。それってすごいですよね。今回のコンペで、日本のAUVがやっと日の目を見ることになります。これを機会に、深海の可能性をより多くの人に知ってほしいと考えています」

日本は国土面積では世界61位だが、領海を含めた排他的経済水域(EEZ)の面積は、世界6位である。EEZにはまだ発見されていない多くの海洋資源があり、それを見つけることができれば、すばらしいことである。横田氏も言う。「だからこそ、まずは見つけておくことが大事なのです。現在チームでは民間企業と共同で研究開発しており、いろんなアドバイスをもらっています。今回のコンペをきっかけにAUV技術の民間移転を進め、大きなビジネスに発展してほしいと願っています」。

これから本格的な挑戦が始まる「Team KUROSHIO」。日本の海の将来を背負った彼らの動向に今後もぜひ注目していきたい。大会やチームの最新情報は、Twitterで発信されている。ぜひ皆さんも「Team KUROSHIO」をフォローし、応援してみよう。

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