一人ひとりにできる「国境なき」人道援助 ロヒンギャの危機はまだ去っていない

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加藤 MSFは性的暴行の被害者だけでなく、住まいを追われたり、家族を失ったりした人々に対し、心理療法など心のケアを行っています。MSFは緊急医療援助団体ではありますが、我々が活動する多くの現場では、こうした心理ケアや、一命を取り留めた後に必要となってくる社会復帰に向けたリハビリなど、長期的に取り組まなければならない医療のニーズが増えています。

人道援助活動を支える社会が必要

サヘル・ローズ 女優、タレント。1985年生まれ、イラン出身。東京アニメーションカレッジ専門学校声優学科声優アクターズコース卒業。2013年ドキュメンタリー「旅のチカラ~失われた故郷の記憶を求めて~サヘル・ローズ~」がATP新人賞を受賞。テレビ朝日「コールセンターの恋人」、映画「東京島」、「みんな! エスパーだよ!」などに出演。NHK「探検バクモン」の進行役としても活躍。著作に「戦場から女優へ」(文藝春秋刊)

サヘル イランでは道路のいたるところに募金箱がありますし、幼い頃から戦争の話が身近にあり、食べられること、生きていること自体がどれだけありがたいことなのかを教わってきました。蛇口をひねって水が出ることは奇跡でもあるのです。日本の常識が、地球の裏側では常識ではないかもしれない。世界で起こっている事態を、まず知ること、関心を持つことに意味があるのだと痛感します。MSFが抱えている課題で、ほかに知ってほしいことはありますか?

加藤 日本に関して言うと、人道援助に対する考え方がまだまだ根付いているとは言えないと感じています。海外では、ボランティア活動のために職を一時的に離れても、すぐに復帰できるように社会として人道援助活動を支援する基盤がありますが、日本では難しい。認識や受け入れ態勢に大きな違いがあるのです。そのため、日本人スタッフの採用も伸び悩んでおり、MSFの海外派遣スタッフ全体で日本人の占める割合は2%に過ぎません。なぜ人道援助が必要なのか。日本の方々に理解を深めてもらえるように我々も努力しているところです。

サヘル 医療スタッフだけでなく、ロジスティクスやマネジメントを担当するスタッフも不足しているそうですね。

加藤 MSFは医師や看護師だけの組織と思われがちですが、実際には医療従事者以外のスタッフが約半数を占めます。医療施設の建設や物資調達はもちろんのこと、車両や衛生管理のプロ、人事や経理などの事務方、現地で管理職として地元の当局やコミュニティと交渉するスタッフなど、彼らがいなければ、活動はまったく成り立ちません。技術支援など日本人の長所を現地で活かせる機会はたくさんあると思います。

加藤寛幸(かとう ひろゆき)小児科医、国境なき医師団日本会長。1965年生まれ、東京都出身。1992年に島根医科大学卒業後、東京女子医科大学病院、国立小児病院、豪州シドニーこども病院、長野県立こども病院、静岡県立こども病院で勤務。2003年より、MSFに参加し、スーダン、インドネシア、パキスタン、南スーダンなどに赴任、主に医療崩壊地域の小児医療を担当。東日本大震災、エボラ出血熱、熊本地震、ロヒンギャ難民に対する緊急援助活動にも従事した。2015年3月より現職

サヘル 日本でも一人ひとりが人道援助にコミットしていけば、状況は変わってくると思います。

加藤 MSF全体では今後3年で約1000億円の活動資金が不足すると予想されています。にもかかわらず、援助地域は拡大しています。民間企業からも支援を受けていますが、まだまだ支援は全体に拡がっていません。ただ、寄付は金額の多寡ではありません。支援していただいた方のお気持ちを届けるために、1円も無駄にすることなく、現地での活動に役立てることが我々の役目だと思っています。
 サヘル その意味では、私たちのほうがもっと意識を変えるべきでしょう。むしろ、加藤先生には私たちが変わることを期待してほしいですね。
 加藤 今もMSFを支援してくださっている方々には大変感謝しています。これからも我々は活動地における緊急事態や顧みられない医療ニーズを発信していきたい。独立・中立・公平な援助を必要としている人々に届けられるよう一層努力していきたいと思っています。

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