一人ひとりにできる「国境なき」人道援助 ロヒンギャの危機はまだ去っていない

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紛争地や自然災害の被災地、甚大な感染症の流行地域などで人道援助を行う「国境なき医師団」。緊急医療が必要な人々に無償で治療を行う姿をメディアで見たことがある人も少なくないだろう。1999年にはノーベル平和賞を受賞し、日本事務局は2017年で設立25周年を迎えた。これから必要な国際援助とは何か。今後、我々日本人は人道援助活動にどうコミットしていけばいいのか。小児科医で国境なき医師団日本会長である加藤寛幸氏と国際情勢に詳しい女優のサヘル・ローズさんが話し合った。

公的資金に依存しないことでできる中立的な活動

サヘル 国境なき医師団(Médecins Sans Frontières 略称MSF)については、幼い頃から耳にしていました。国家の枠組みを超えて、紛争地や医療の届かない地域、行き場を失った難民や避難民のために無償で人道援助を行う。まさに、ほかのどの団体にもできないような、壁のない活動をされていますね。

加藤 MSFは1971年にフランスで設立された非営利の国際的な民間の援助団体であり、世界およそ70カ国で460あまりの援助プログラムを実施、3万9,000人ほどのスタッフが活動しています。2017年で設立25周年を迎えた日本事務局からも年間100人以上のスタッフが延べ150回以上、派遣されています。現在、世界的に国際人道援助の予算が切り詰められる傾向にありますが、緊急医療援助を担うMSFの役割はますます重要になっています。

サヘル 言葉の通じない地域も多くある中で、心で接しようとするスタッフの姿は強い印象として残っています。

加藤 援助を必要としている人たちに分け隔てなく寄り添うことは、我々の活動の根幹です。一方で、活動する中にはジレンマもあります。エボラ出血熱流行の際には、我々も現地で必死に治療に当たりましたが、感染を拡げないことと目の前の一人を助けることのどこにバランスを置くべきなのか、強い葛藤を覚えました。また、南スーダンでは2016年7月に首都で大きな戦闘があり、翌年PKOで派遣された日本の自衛隊は撤収しました。しかし、今の状況は以前よりさらにひどい状況にあると考えられます。医療体制は崩壊し、大火傷を負った7歳の女の子が炎天下に、3日間かけて自力で病院まで来るような世界です。薬があれば治るような病気なのに、子供たちはどんどん亡くなっています。国際社会でさえ関心を持たないような国で、出口のない危機が続いているのです。

サヘル MSFが独立・中立・公平な立場で活動できる理由とは何でしょうか。

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