深海、過酷な「レース」に挑む挑戦者たち いまだ私たちは「地球の3分の2」を知らない

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各チームが競うのは、水深4000m海域における超広域高速海底マッピングの技術だ。ラウンド1では、広域かつ高速での深海探査に必要な技術評価試験が行われ、2018年10月から始まるラウンド2では、24時間以内に最低250km2以上の海底マップの構築と海底ターゲットの写真撮影(10枚)に挑む。

深海では人間の指先に約400kgの圧力がかかる

水深4000mの世界を想像できる人は、いったいどのくらいいるだろう。富士山がすっぽりと収まってしまうほどの深い海の底は、まさに極限の環境である。生身の人間がスキューバダイビングで潜れる水深は、せいぜい30m。いわゆる深海と呼ばれるのは水深200mからだが、そこは太陽光がまったく届かない、ライトがなければ1cm先すら見えない暗黒の世界だ。

「ブタメン」の容器を使った圧力実験。水深6500mでは、およそ650気圧の負荷がかかり、約1/8の大きさにまで縮んでしまう

それだけではない。10m深くなるごとに約1気圧ずつ水圧が上がる海において、水深4000mでは約400気圧、例えるなら人間の指先に400kg、相撲力士2人分相当の重りが乗っているといったとてつもない圧力がかかる。しかも、日常当たり前のように使っているGPSやWi-Fiも使えない。そんな困難が多い深海で、山手線内側の面積の約8倍にも相当する広大な海底調査を短時間で行い、陸に戻ってマップを作成することがいかに難しいか。過酷な「レース」と表現する理由は、ここにある。

「だからこそ、ワクワクするのです」と中谷氏は話す。「月面に到達した人は、これまで12人ですが、海の世界最深部に到達した人はわずか3人しかいません。宇宙もさることながら深海にはまだまだ知らない世界が広がっています。実は、私たちはまだ地球のことでさえ十分に解明できていないのです。地球表面の71%は海で覆われていますが、その海の底はその1割程度しか解明されていません。つまり、いまだ地球の3分の2が未知の世界なのです。私自身、そうした未知なる深海へのロマンに魅了されてきた一人です。今回のコンペを通じて、その秘密を解き明かすための画期的な”道具”を開発したいと考えています」。

そんな志のもとに集まったのは、約30名の研究者、技術者たち。そのほとんどが20-30代の若者だ。

「Team KUROSHIO」のメンバー(提供:Team KUROSHIO)
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