イノベーションを支える理工系高等教育への期待 理工系大学

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たくましく、柔軟なイノベーション人材に

― イノベーションのために、何を意識したらいいのでしょうか。

中鉢 理工系人材が感じる喜びには、知る喜び、作る喜び、そして役に立つ喜びという3つの喜びがあると思います。知ったことを活かして、形あるものを作り、そして役に立たなければ、プロにはなれません。役に立たないものにはお客はお金を払わないからです。これは研究そのものにも当てはまります。「そのうち何かの役に立つだろう」と独りよがりな研究ではなく、プロであるためには、顧客とその満足度を意識すべきです。そうしなければ、社会の役に立ち、インパクトを与えるイノベーションも生まれないでしょう。

― どのような人材が求められますか。

中鉢 役に立つものを創造する人材となるには、変化をいとわない、たくましさが大切だと考えています。私自身は、資源工学、かつての鉱山工学で博士号を取って、エレクトロニクスのソニーに入社しました。石炭の掘り方を知っていても、ソニーでは何の役にも立ちません。だから、専門にはこだわらずに仕事をしてきました。イノベーションは、専門分野の研究者が集まっただけでは生まれません。イノベーションを起こす最後のパズルのピースは、専門にこだわらない柔軟性のある人、連携をつなぐ手の数を多く持ち、点と点を結びつける力のある人だと思います。

― そうした柔軟性のある理工系人材はどう育成するのでしょう。

中鉢 私の学生時代は、計算機は電卓ではなく、機械式の手回し計算機の時代でした。そんな不便な環境の中でも、何とか間に合わせるために方法を編み出す柔軟性、たくましさを育てられました。今は、機器も便利になりましたが、柔軟性やたくましさをもっと養ってもらいたいと思います。また、目的意識も大切でしょう。ソニー時代、入社後の研修で、新入社員の目の色が変わるのを目にしてきました。社会の役に立つものを作るプロになって生きるという心構えを身に付けると、人は変わるのです。更に、一芸は多芸に通じる。連携をつなぐ手の数を増やすには、広く学べばいいというものではないということです。専門を深く、一流の域まで究めた人ほど、異分野の人と話ができるものです。

― イノベーションを担う理工系人材への期待をお話しください。

中鉢 産総研の理事長に就任した時、所員に対して「科学技術イノベーションを担う産総研は今こそ出番です」と訴えました。イノベーションを興すには、文理融合を含めた連携は重要ですが、最初に突破口を開くのは、やはり理工系の技術です。理工系の大学の皆さんにも「今こそ理工系の出番です」とエールを送りたいと思います。