食と農の未来を切り拓く、新時代の人材育成に迫る。
【「教育力」で、複雑化するグローバルイシューに立ち向かう】
龍谷大学
人口70億人を突破した現在、
深刻化する食料不足や貧困問題
徹底した利益追求や効率優先の経済活動が繰り広げられる現代社会。大量生産・大量消費・大量廃棄のサイクルによって成り立つ豊かさや繁栄の裏で、食と農をめぐり多様な課題が生じている。人口が70億人を突破したことで世界の食料確保問題は年々深刻さを増し、食品ロスの増加や食の安全・安心に関する問題も後を絶たない。さらに、グローバル化に伴って国家間で貧富の差が拡大し、とりわけ貧しい国々・地域においては食料不足による飢餓問題の解決が急務になっている。こうした課題を解決するために、今、あらためて農業のあり方が根本から問われている。
地球規模での食の課題を解決すべく求められる、
次代の農業のあり方とは
農林水産省によると、人口増加や飼料用穀物の需要増加により世界の食料需給がひっ迫し、穀物と大豆の国際価格は2007年~09年の平均価格と比べ、2020年までに最大で35%上昇すると予測されている。穀物生産国は自国での消費を優先するため、限られた余剰作物をめぐる争奪戦が起こり、一度、気候変動などで不作が起これば食料価格の暴騰は避けられない。現在の日本に目を移せば、食料自給率はわずか40%で多くの食物を海外からの輸入に依存している。自国の農業が弱体化する一方で、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加により農業の国際競争力が求められるなど、今後の課題は山積だ。利益至上主義など既存の価値観にとらわれない長期的視野に立った食と農の「サスティナビリティ」、それを支える人材の育成が次代の農業に欠かせないテーマになると言えよう。
持続可能な農業を目指して
龍谷大学が新設する農学部の試み
既存の価値観や取り組みの延長線上で、人口増加や貧困問題、異文化間の摩擦・衝突が絡み合った現代の多様な課題を解決することは難しい。複雑化する課題に対し、龍谷大学は「知の拠点」としての社会的役割を果たすべく、2015年4月に農学部を新設する。農学部のコンセプトは、人間の根源である「いのち」とそれを支える「食」を「食の循環」という観点から見つめ直し、農学を、自然科学に社会科学や食品栄養学を含めた総合科学としてとらえ、食と農にまつわる諸課題の解決を目指す、というもの。世界で起こっているさまざまな紛争の根底には食料資源をめぐる問題が横たわっていることが少なくない。真に社会で役立つ農学を展開するために、生産技術から加工、分配の仕組みまで学問分野を越えて研究に取り組む必要があるのだ。作物多様性の維持や集落・村の活性化という視点から、地域の農作物に焦点を当てた活動にも力を入れるという。そして、人材育成の面では「幅広い専門知識を有した農のゼネラリスト」がキーワードになる。社会の課題に関心を持ち、確かな知識に基づく科学的知見と高い倫理性を兼ね備えた人材を育てることで、持続可能な社会の実現に貢献していこうというのだ。新たな価値観のもとで物事の本質に目を向け、100年200年先を見据えた農業のあり方を模索し、発信しようとしている。