東洋経済オンラインとは

VR/ARは人と仮想世界の架け橋になりえるか 技術がもたらす新たな可能性

AD
  • VR/AR広告特集 制作:東洋経済企画広告制作チーム
廣瀬通孝
/1954年神奈川県生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科教授、日本バーチャルリアリティ学会特別顧問。1977年東京大学工学部産業機械工学科卒、82年同大学院博士課程修了、工学博士。99年に同大学先端科学技術研究センター教授に就任、2006年より現職。機械力学、制御工学、システム工学を専門とし、VR研究の第一人者、かつAR活用の先駆者として知られる。『バーチャル・リアリティって何だろう ―仮想と現実のあいだ』(ダイヤモンド社、1997)、『ヒトと機械のあいだ—ヒト化する機械と機械化するヒト(シリーズ ヒトの科学 2)』(岩波書店、2007)など著書・共著多数
 コンピュータが作り出した仮想世界と現実世界を結び付けて認識させるVR(バーチャルリアリティ、仮想現実)、AR(オーグメンテッドリアリティ、増強現実)技術。近年ゲーム業界やエンターテインメント分野を中心に実用化され、AIやIoTと並ぶ最先端のIT技術として注目されている。このVR/ARの本質や可能性について、東京大学大学院情報理工学系研究科教授の廣瀬通孝氏に話を伺った。

さまざまな疑似体験を可能にするVR/AR技術

―2016年は「VR元年」とも言われました。

廣瀬 実はVRの歴史は長く、人の頭に装着して視界全体を覆うヘッド・マウンテッド・ディスプレー(HMD)を使ったシステムが考案されたのは1968年のことでした。コンピュータグラフィックス(CG)で作り上げた世界に、人が入り込むことで鮮明な体験をすることが可能なのではないか、という考えから始まり、80年代には、宇宙飛行士や航空機パイロットの訓練を想定した研究開発が進められるようになりました。そして80年代末に、アメリカで「VR(バーチャルリアリティ)」という言葉が初めて使われ、90年代に、最初の盛り上がりを迎えました。その意味で、現在起こっているブームは2巡目、60年代から数えると3巡目になります。

―VRは、どんな技術ですか。

廣瀬 VRは、人間に、コンピュータで作り上げた人工の世界に入り込んだように感じさせることで、さまざまな疑似体験を可能にする技術です。よりリアルさを追求するためには、あたかも現実世界であるかのように感じさせるプレゼンス(臨場感)、仮想世界の物を自由に扱えるインタラクション(相互作用)、引力など現実世界にある物理法則をシミュレートしたオートノミー(自律性)などの要素が含まれます。視覚だけでなく聴覚、触覚等も含んだ五感を使うマルチモーダル技術とも、深い関連を有しています。

―ARも注目されています。

廣瀬 ARは、VRとルーツは同じです。ただ、現実世界から完全に切り離した仮想世界に没入させるVRに対し、ARは、現実世界が見える透過型ディスプレーに合成した情報を重ねて映し出し、リアルとバーチャルをつなぐ技術です。VRはその場に居ながらにしてさまざまな世界を体験できますが、ARは体験者が実際に動かなければ、ディスプレー越しの現実世界も動きません。したがってARでは、携帯できるモバイル、ウエアラブル端末の存在が重要になります。

人とバーチャル世界をより自然につなぐ接点

―なぜ、これほどVR/ARが注目されているのでしょう。

廣瀬 デバイスが安価かつ高性能になった影響が大きいでしょう。80年代末期のデバイスは、文字も読みにくいほどの低解像度にもかかわらず、数百万円という価格がつけられているケースもありました。現在はそれよりもはるかに高精細のHMDを、数万円で購入できます。もう一つは、技術をめぐるエコシステム(生態系)の成立です。VR/ARを楽しむには充実したコンテンツが欠かせませんが、今では360度カメラが市販され、映像コンテンツをウェブ上で手軽に入手できるようになりました。

―VR/AR技術は、今後どんな役割を担うのでしょうか。

廣瀬 最近注目されているAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)とVR/ARをセットで考えると、IoTで収集、AIで解析したビッグデータを人にわかりやすい形で示し、物事を動かすことがVR/ARの役割といえるでしょう。現代はネットショッピングなど、世の中全体のバーチャル化が進んでいます。VRを使うことで、現実世界との差をあまり意識することなく、仮想世界を疑似体験することが可能になります。

機能の本質を見据えた発想の転換が重要だ

―VR/AR技術の実用化は、どこまで進んでいますか。

廣瀬 今のところ、ゲームやエンターテインメント領域がリードしていますが、住宅売買や都市開発、インテリアなど空間と関係の深いビジネスでVR/ARはすでに使われ始めています。また、製品設計時に模型の代わりにVRを使うことも、メーカーを中心に始まりました。訓練・教育用途の関心も高く、たとえば博物館は展示物(モノ)だけでなくVRを用いた疑似体験によって、歴史を「コトとして伝える」試みを模索しています。面白いところでは、スポーツ関係者から、日本人が外国人選手の体格の良さに慣れるため、VR/ARを活用できないか、という話も寄せられています。

―今後、私たちはVR/AR技術にどう向き合うべきでしょうか。

廣瀬 VR/ARともに、臨場感やマルチモーダルなどの点で、まだ技術的課題も多くあります。しかし、やりたいことを明確にすれば、それを実現するために技術は進化していくはずです。今申し上げたように、ビジネスへの応用は、比較的容易に想像できる分野ですでに始まっていますが、私は、意外な組み合わせにこそ、大きなチャンスがあると考えます。たとえば私たちの研究室では、AR技術で食べ物の大きさを変え、満腹感を変化させる研究も行っていますが、カロリーという物質的な要素を情報に置き換えた新しいダイエットへのアプローチとして、大きな反響を呼びました。このように、提供したい製品やサービスの原点を情報によって実現しようとするところにVR/ARの可能性が潜在しています。バーチャルには、「物の本質」という意味があります。サービスの本質を見据えた発想転換ができるか。将来に向け、そこがビジネスパーソンに問われているように思います。