デジタル時代のグローバル経営管理の新潮流 世界中の経営資源を集約、可視化の先の未来
特別講演I
アステラス製薬の変革と挑戦
―事業構造改革、グローバル経営体制の視点
2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併、誕生したアステラス製薬の畑中好彦氏は「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」という経営理念の下、新薬創出に特化したビジネスを説明した。特許切れで収益が悪化するパテントクリフを乗り越えつつ、成長基盤を構築するため、自社のケイパビリティの向上に加え、世界の研究機関・ベンチャー企業とのネットワーク型研究体制を構築しながら、がんや細胞医療領域の事業機会獲得のためにM&Aを推進。その一方で、海外研究所の閉鎖、中核ビジネス以外の整理など経営資源配分の最適化も断行。トップマネジメントに外国人を入れたほか、取締役会、監査役会ともに社外が多数を占める構成にして、ガバナンス体制を強化した。さらに従業員のモチベーションを高める価値観の共有を図り、「多様なステークホルダーの信頼を得て、企業価値を向上させたい」と結んだ。
特別講演II
サッポログループのグローバル経営管理
―SPEED150とSAPPORO-WAY
グループ創業150周年の2026年に向けた長期経営ビジョン「SPEED150」を進めるサッポロホールディングスの黒川雅弘氏は、06年に買収したカナダ・スリーマン社のPMIを中心に、グローバル化の取り組みを語った。異なる文化で分断された3社の集合体だったスリーマン社に対し、ERP導入など経理部門の高度化で、経営管理機能を強化した。ミッション、ビジョンを定めてサッポロウェイ浸透を図り、グループ企業文化を醸成。さらに、12年には現地主導で制定したベター・ビアなどのミッション・ビジョン・バリューに発展、結実した。海外売上比率は06年の2%弱から10年間で約20%にアップ。「サッポロのDNAを持つ現地スタッフによるオペレーション実現が本当の現地化」と述べた。
ディスカッション
デジタル時代のグローバル経営管理
―世界中の経営資源を集約、
可視化の先にある未来とは?
スリーエム ジャパンの昆政彦氏は、グローバル経営管理の課題として、世界共通のビジネスの測定法の必要性を強調。新製品で価値を出す戦略を支えるための新製品売上比率など、独自の経営会計、内部向け指標で管理する取り組みを紹介した。また、グローバルな管理は、リーダーが取るべき行動規範を明確にして、現場で意思決定する同社のやり方に言及した。デジタル技術は「他社と同じITツールを使っても勝てない。ユーザー側は独自の勝ちパターンを探すことも必要」と述べた。
日本マイクロソフトの田村元氏は「クラウドによって世界の拠点を“神経”でつなぎ、さまざまなことができるようになった」とアピール。販売在庫の不足解消のため、世界各地の工場の生産余力、パーツの在庫を見ながら、どの工場にいくら発注すべきかを机上で検討できるグローバル製販システムを紹介した。また、PCの使用状況などから、業務に集中できた時間などの働き方を分析、より良い働き方を模索する実験を紹介。AIはすでに売り上げ予測に活用され「実証から実用段階に入ってきた」と述べた。
資金を見える化するトレジャリーマネジメントシステムを提供するキリバの佐伯和聖氏は「5年前は関心が低かった資金管理の認知度が上がり、この一年は多くの提案依頼が来ている」と市場の変化を振り返った。このツールで手持ちの現金、支払利息を大幅に圧縮した企業も現われている。同社は、AIを活用して、テロ組織などの疑いがある口座への出金、通常の金額や時期と比較して疑わしい支払いを検知する不正防止モジュールを今年リリース。「財務高度化を通じ経営に貢献したい」と語った。
出張・経費管理などの管理ツールを提供するコンカーの三村真宗氏は、1.間接費の見える化で不要な費用を削減 2.交通系ICカード・法人カードデータ取り込みの自動化や、スマホでの承認などによる手間の削減やすき間時間の活用を促す改革支援 3. 不正を防ぐガバナンス向上―の三つの効果を強調。同社のロビー活動により電子文書保存法が改正され、紙の領収書の保管不要化もこの流れを後押しする。「まず短期で改善できる領域から改革を行い、じっくりERPに取り組む企業も増えています」と最近の動向を紹介した。