トヨタ「時間に縛られない」新勤務形態の狙い 裁量労働に近いがちょっと違う絶妙な仕組み

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最後のポイントは、新制度の導入は労働組合の同意が得られることを前提条件としているということである。

報道されているところによると、45時間分の「みなし残業代」は、新たに追加支給をするということではなく、調整給など既存で支払われている手当が、支給名目を変えて「みなし残業代」に充当されるようである。

新制度では残業時間に関係なく月17万円(45時間分の残業代に相当)を支給する。月17万円の支給額は一般的な主任職の裁量労働手当の約1.5倍。過去の人事・給与体系の移行措置で残った調整給などを原資に充てるもようだが、対象者が想定を上回ると人件費が増える可能性もある。(日本経済新聞 2017年8月2日付)

この点、既に固定給の一部として支払われている基準内賃金の手当を、今後も固定的に支払うとはいえ、残業代に回すことは、労働条件の不利益変更に該当する。

労働条件の不利益変更を行うには、対象となる社員1人1人と個別合意することが労働契約法の大原則である。しかしながら、トヨタ自動車のような巨大企業で、対象となる全社員と個別合意を集めることは現実的ではない。

トヨタの場合、大半の社員が加入している労働組合(トヨタ自動車労働組合)が存在するため、労働組合と労働協約を締結するという形で導入合意が得られれば、それが対象者全員と個別合意したのと同じ法的効果を持つことができる。したがって、労働組合との合意をきちんと行った上で制度導入をするという手続面においても、不備がない。

働き方も「カイゼン」

トヨタは「カイゼン」のDNAを持った会社であるが、いよいよ働き方の「カイゼン」にも余念がない。

トヨタにおける「カイゼン」とは、経営陣から指示されるのではなく、製造現場の作業者が中心となって知恵を出し合い、ボトムアップで問題解決をはかっていく取り組みという意味で使われている。今回は、「経営陣」を「国」に「製造現場」を「トヨタ自動車という会社そのもの」に置き換えられる。

すなわち、国が法改正を行うのを受動的に待つのではなく、現行の法制度の枠組みの中でできることを見つけ出して「カイゼン」を行い、自分たちが働きやすい働き方の制度を作り出していくという姿に、トヨタらしさを私は感じた。

榊 裕葵 社会保険労務士、CFP

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さかき ゆうき / Yuki Sakaki

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。会社員時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。

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