フランス大統領選挙、「中道マクロン」の苦悩 気鋭のカリスマは「右でも左でもない」
「前進!」はフランス政治の因習を打ち破るという主張もある。「左派」「右派」は世界共通の政治用語だが、起源はフランス。革命期の1789年の国民議会で、議長席から見て左側に急進革命派が、右側に王党派が座っていたことに由来する。
「『前進!』が左か右かを気にするのは、識者とフランスのジャーナリストだけだ」と、広報担当のバンジャマン・グリボーは言う。「私たちは私たちが信じることをやる。だからこそ政策提言に一貫性がある」
しかし、どこからともなく現れた新しい中道政党がフランスの議会で過半数を獲得した前例はないと、ロンドン大学ユニバーシティーカレッジのフィリップ・マルリエール教授(フランス・ヨーロッパ政治)は言う。
「フランスには、政治的な中道は存在しないという考え方がある。フランスでは左も右も、もう古い。重要なのは考えであり、人格であり候補者だ。(「前進!」は)今や力強い新勢力になっている。今後の展開は全く分からない」
グリボーによれば、既に共和党と社会党から現職議員と候補予定者合わせて50人の支持を取り付けている。マクロンが大統領選で圧勝すれば、追随する人が増えるかもしれない。
「前進!」にとっての「真の障害」とは?
もっとも、総選挙前のくら替えは簡単な話ではない。グランデノンの周囲の政治家たちは、「前進!」の旗印では選挙区の支持を失いかねず、今すぐ共和党を離れるわけにはいかないと語っている。
その点が、既存政党の議員や候補者をさらに引き入れようとする際の「真の障害」だと、グランデノンは言う。彼自身、正式には共和党員のまま、今回は党を支持しないというだけだ。
マクロンが大統領に当選すれば、フランスは未知の領域に足を踏み入れると、マルリエールは言う。「フランスの政治が再構成される。議会選挙を通じてどのような姿に形作られていくのか、今は極めて混乱した不確かな状況だ」
マクロン本人は、「リスクを恐れるなら死んだも同然だ」と、3月にロンドンで記者団に語っている。しかし、彼に投票するということは、単独政権なのか連立政権を組むのかも分からず、権力を行使する政治基盤が定まらない大統領を選ぶという賭けでもある。
(文:ジョシュ・ロウ、クレール・トゥレーユ)
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