東洋大学

これからの社会を動かしていく人材とは 東洋大学

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東洋大学は、1887年に哲学者である井上円了によって「私立哲学館」として創立された約130年の歴史を持つ総合大学だ。哲学を建学の理念とする私立大学で、近年ではオリンピックでの競泳、陸上競技、そして駅伝や相撲などスポーツ分野での輝かしい実績を残している。一方、2014年には、わが国の国際化を牽引する大学を重点支援する事業、文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援」のグローバル化牽引型に採択され、グローバル人材育成の取り組みが加速している。「世界で存在感のある大学へ」と題したこの企画では、グローバルに活躍できる人材に求められる能力、その育成のために大学や社会がどう取り組むべきかについて、全6回の連載を通して明らかにする。第6回は、住友商事相談役を務め、現在はICT推進に関する総務省の懇談会などで活躍している岡素之氏が登場。今春、東京都北区赤羽台の新キャンパスに新設される情報連携学部(Faculty of Information Networking for Innovation and Design, INIAD)の学部長に就任予定の坂村健氏と、激動する国際社会で活躍できる人材像や育成について語り合った。
左から東洋大学 情報連携学部長(就任予定)坂村健氏、住友商事 相談役 岡素之氏

私は商社マンとして第1次、第2次オイルショック、イラン革命などを経験しました。いま、世の中が大きく変わりつつあると言われていますが、いつの時代も変化はつねに起きています。企業の存続・発展に重要なことは、弱肉強食の強者になることではなく、進化論でいう適者生存の適者になることです。ただ、変化への対応には、しっかりした軸も必要です。住友には400年間、受け継がれてきた「自利利他公私一如(じりりたこうしいちにょ)」という事業精神があります。それは、自分たちだけでなく、周囲の社会の利益も考えなければならない。何があっても信用を守るということ。明治期に住友が経営した別子銅山では、付近の山林の乱伐が行われましたが、当時の住友のトップが、事業精神にのっとり植林を命じ、現在は緑の山になっています。関係者全員を大切にして、明治維新や第二次大戦後の激変を乗り越えてきた日本的な理念・文化は、もっと世界に発信されるべきです。

坂村 確かに、国際化が進む現代では国際語としての英語の習得も大事ですが、岡さんがおっしゃられたようにこの国が長年培ってきた伝統や文化、理念などの軸が必要になりますね。

住友商事 相談役
岡素之
1966年住友商事に入社。2001年から同社社長、07年から会長を歴任し、12年に相談役。政府の公的活動にも注力し、16年5月に第四次答申をとりまとめた規制改革会議の議長を務めた。現在も、社会のICT化推進を図る「2020年に向けた社会全体のICT化推進に関する懇談会」や「ICT街づくり推進会議」の座長などを務める

企業がこれからの社会を担う人材に求めるのは、自分なりのしっかりとした軸を持って激しい変化に対応できる能力です。そのためには、目の前の事態に対し、自分の頭でどうすべきかを考えられなければ始まりません。若手社員には「1日最低1回は考えることを習慣づけよう」と話し、私自身も朝昼晩の食後に歯を磨きながら考えることを実践しています。私は、1990年代前半、油田から石油をくみ上げるパイプ(油井管)在庫管理のICTシステムを提案し、石油会社、商社、メーカーが在庫状況を共有できるサプライチェーンマネジメントを始めた経験があります。重要なのは、職種に限らずすべての人材が「技術を使ってどんなビジネスを生み出すことができるのか?」を考えることです。

坂村 おっしゃるとおりで、アイデアを考える人がいなければ、何も始まりません。考える力は非常に大切です。ICTなどの技術をツールとして活用し、新たな価値を生み出す、それこそがICTの本質とも言えるでしょう。東洋大学が2017年4月に新設する情報連携学部(INIAD:イニアド)では、学生が自ら考えて発信する力を身に付けるため、少人数でディスカッションを行う授業を導入します。いまの世の中では、講義だけならICTを利用すればどこでも視聴することができるので、MOOCs(大規模オンライン学習システム)を活用した動画授業などの教材で説明的内容は事前に学習し、授業はグループ学習やアクティブラーニングを中心に行う「反転型学習」を取り入れます。知識の習得にかかる時間にバラつきがある学生たちも、ICTのサポートによって、それぞれのペースに合わせて理解を深めることができます。その上で、ディスカッションやプレゼンテーションを行い、自分の考えを発信することで、コミュニケーション力を高めていきます。

大学の授業が大きく変わりますね。さらに、企業は多様な専門性を持つ人々が集まってこそ成り立ちますから、大学では多様な専門性を身に付けた人材を育成してほしいと思います。そして、そうした多様な人々とチームプレーができることが三つ目のポイントです。どんな仕事も一人で目標に到達することは困難です。一緒に取り組むチームメイト、サポートしてくれる人が必要です。逆に、チームプレーができないと、いくら卓越した専門性があっても仕事になりません。最後は、コンプライアンス(法令遵守)。法と規則を守り高潔な倫理を保持することは、基本中の基本です。ルールを守ることは初等教育から徹底して教えてほしいと思います。

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