確実に進む物流施設の地方立地
柏木 孝之(かしわぎ たかゆき)
ここ数年の工場立地動向調査を見ると、地方に新規立地している施設の多くが物流施設である。多いときは7〜8割が物流施設で占められていることもある。
圏央道沿いでは国内の大手有名企業・外資などが大規模なロジスティックセンターを次々とつくっている。ただ、当該地域が活性化するには、ロジスティックセンターに情報センター的機能のような施設や機能がプラスされていると波及効果が高い。
今は高学歴の女性が郊外に住む例が増えている。情報センターができれば、そうした女性が働く場になりえる。データ収集・整理だと、仕事は深夜の時間帯になることが多い。そこで多くの女性が働くとなると、安全性をどう担保するかということが課題になる。産業環境条件として、夜間も照明で明るくするなどの方策が必要になるだろう。夜間が明るくなると、夜の人通りが増え、飲食店などもできるようになる。人の流れも変わってくる。そう考えると、ロジスティックセンターの増加は地域経済にとってプラスになる。
かつては、量産段階に入った製品の製造が地方に分散するというのが、日本型の産業集積モデルであった。けれどもバブル崩壊以降、韓国、台湾や中国の量産メーカーが急速に台頭し、そうしたモデルは説得力がなくなってしまった。そこで私は海外各国を見て回ったが、米国テキサス州の都市、オースティンで、新たに日本型産業集積モデルに応用できるものに出会った。
オースティンモデルの実現を
PCメーカーのデル創業の地として知られるオースティンは、1960年代半ばから80年代半ばまでの約20年間に、人口が14万人から76万人に急増した。テキサス大学オースティン校のコズメツキー博士が地元の産官と協力し、IBMやモトローラなどの企業や、コンピュータ業界の共同研究機関などを誘致した結果、その後も人や企業、資金が自然と集まるようになったからであった。誘致型の企業集積からスタートし、内発型の発展へと転換し、地域経済循環が活発化した好例である。
私はかねてからオースティンモデルを日本でも実現できないかと考えてきた。たとえば神奈川県のある都市では、自動車工場跡地に家電量販大手の物流センターが稼働しているが、この企業はここに情報センターも設けている。この企業はオムニチャネル事業を実践しているが、BtoCのビジネスでは取り扱う情報のデータ量がけた違いに大きくなるためだ。
また、この地域には、医療機器や医薬品、衛生用品などをつくっている外資系のメーカーも立地しており、ナノ医療イノベーションセンターも立地した。こうした頭脳の拠点ができると、さまざまな産業に波及していく。実際、私立大学の大学院や国立大学がここに拠点をつくることもすでに発表されており、ロボティクスのベンチャー企業も出てくる予定だ。そうなると関連する研究機関などが出てくることも予想されるし、海外の研究者も集まるようになるだろう。
波及効果の大きい産業の誘致の代表格は自動車産業だ。以前、愛知県内のある都市に大手自動車メーカーが臨海部としては初めての工場をつくったときには、同市の所得が大きく増えた。同社関連のメーカーが岩手県内に立地したときも東北経済に大きな波及効果を及ぼした。
ただ、気をつけないといけないのは、今後の大きな産業の構造変化だ。たとえばガソリン車の場合、完成車1台に3万点くらいの部品が使われるが、電気自動車になると部品点数は10分の1ほどに減る可能性がある。そうなると、自動車メーカーの製造拠点を誘致しても、ガソリン車のときほどには多くの部品メーカーなどが集積しないかもしれない。自動車メーカー各社は今後徐々に電気自動車や燃料電池車に生産の主力を移行させていくであろうから、この傾向は次第に強まっていくに違いない。一方、ハイブリッド車や電気自動車が増えるに伴い、ガソリンの需要が減少していくことも予想されている。今後、石油精製などの製造分野でも徐々に変化が現れる可能性がある。
地域経済循環の仕組みが必要
安倍政権は、地方創生政策の一環として企業の地方移転を促進させる意向を示している。たこ焼きチェーンを展開する企業が宮城県石巻に本社を移転したように、これからも地方に本社を移す企業が出てくることはあり得るだろう。ただ、いずれにしても自治体は、産業や経営のトレンドを把握し、先を読まないと誘致を成功させることは難しい。
私は、東北の被災地に看護系や介護系の大学をつくることを提起したいと考えている。できれば全寮制が望ましいだろう。1学年100人として4年制大学なら、通常18歳から22歳の若い人が400人、少なくとも4年間その地域に定住することになる。若い人がくるということだけでも、地域には大きな影響がある。病院や福祉施設などがあれば、卒業後その地域で就職し、本格的に定住するようになるかもしれない。少子高齢化が進む中、文部科学省が大学の新設を認めるかどうかは不透明な部分もあるが、そういう実験的な試みをすることも必要だろう。
企業誘致を成功させるには、地域経済循環の仕組みをつくりださねばならない。しかしそれは行政の力だけでは難しいのが現実である。産学などとの連携も必要だし、コンサルなどの力を借りなければならないこともあるだろう。
また、企業を誘致するということは、人に来てもらうということであり、他の地域の人が住みたいと思う場所にしなければならない。地元を好きになってもらわないといけない。そのためには多様な魅力ある人材が地域にいることも大切なポイントになる。たとえばベンチャーや中小のメーカーは、いい製品をつくる力はあっても、それをマーケットにつなぐ力が不足していることが多い。介護施設などはマネジメントできる人材が不足して困っているケースが少なくない。
企業の立地を梃子に内発的な成長へと発展することが、地域経済の活力となる。魅力的な人材の育成まで含めて時間をかけてじっくり取り組む姿勢に注目したい。