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富裕層の信頼に応える質の高いプライベートバンキングの充実が、日本の金融市場を活性化させる。

  • 制作:ビジネスメディアパートナーズ
企業オーナーなど富裕層に向け資産運用や事業継承、遺産相続など幅広くアドバイスや実質的なバックアップを行うプライベートバンキングサービス。
欧州発祥のこのビジネスが今、日本で充実し、高い注目を集めている。
背景に銀行や証券の垣根を低くする法改正や、それを受けての金融機関のグループリソース強化がある。
プライベートバンキングの役割や付き合い方について、野村総合研究所 上席コンサルタントの宮本弘之氏に聞いた。

日本のプライベートバンキングビジネスが
新たな成長段階へ

野村総合研究所 上席コンサルタント
金融コンサルティング部長
宮本 弘之

1965年生まれ。90年、東京工業大学大学院理工学研究科(経営工学専攻)修了後、野村総合研究所入社。専門は、金融機関の経営戦略立案、チャネル戦略・マーケティング戦略の立案と実行支援、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)、コールセンター戦略、営業改革など。『プライベートバンキング戦略』(共著、東洋経済新報社、13年3月刊)ほか、著書多数。

― 現在、プライベートバンキング(以下、PB)サービスを取り巻く環境はどのようになっているのでしょうか。

宮本 PBの対象となるマーケットについて、野村総合研究所(以下、NRI)では、純金融資産が1億円以上の富裕層は全国に約81万世帯で、資産の総額は約188兆円と推計しています。日本の個人金融資産は約1500兆円で、そこから負債を引くと約1138兆円とされます。そのうち、約17%が富裕層の資産というわけですから、その存在はかなり大きいといえます。

日本の富裕層マーケットは米国に次いで世界第2位の規模と言われていますが、NRIの調査では、対象となる人のうち、実際にPBサービスを利用している人は約3分の1にすぎず、まだ普及しているとは言えません。

ただ、ニーズは高いと感じています。現代の日本の富裕層の方々は、主に戦後に創業した企業オーナーであり、上場企業のオーナー経営者の中には、資産の8割以上が自社株という人もいます。このようなオーナーは、自社の事業の拡大のほか、事業承継など、複雑な課題を抱えていることが少なくありません。

こうした状況に対してPBサービスは、金融機関の総合力でソリューションを提案して共に解決へとつなげようというものですから、もっと利用されてしかるべきものだと思います。

― PBサービスへの期待が高まるわけですが、金融機関はどのような取り組みを進めていますか。

宮本 国内系、外資系の違いを問わず、多くの金融機関では現在、PBサービスを強化しようと、リソースを投入し整備を図っています。これを大きく後押ししたのが、いわゆる「銀行・証券の垣根」を定めるファイアーウォール規制(業界分野規制)の緩和です。これによって、銀証が連携した運営が可能になりました。

これを受けて国内メガバンクではグループ内の連携を強化、ワンストップ的なPBサービスの提供が進み、欧州の「ユニバーサルバンキング」に近づきました。

金融機関の立場から見ますと、国内市場が成熟する中で富裕層を対象にしたPBサービスは、数少ない有望なマーケットとして期待され、いわば顧客、金融機関双方のニーズが合致したビジネスとして、今後活性化していくだろうと見ています。

「企業オーナーの伴走者」として
富裕層顧客の信頼に応えるPBへ

― 日本の富裕層の多くが企業オーナーというお話でしたが、それらの顧客に特有のニーズはありますか。

宮本 欧米では、ある一定の年齢になるとリタイアを考え、「その後の人生を楽しむために」とPBサービスを利用する例が多いと言われるのに対して、日本では「生涯現役」を貫き、仕事もオフも充実させたいという経営者が多いのではないかと思います。そしてそこに日本ならではのニーズがあるように感じます。

やがて訪れる子どもなどへの事業承継や相続など、大きな課題の解決のために、税理士や公認会計士、弁護士などの専門家がオーナーを支援する例もあります。ただし、それぞれが自分の専門分野しかアドバイスできないとなると、オーナーにとって最適とは言えません。

またオーナーはときに、「子どもを社長にしたが向いていないようだ。解任すべきか」といった、配偶者や部下にも言えない悩みに直面します。オーナーの事業はもとより、家族や人生プランも含めて、オーナーと同じ目線で目標を設定し、課題解決を支援できる相談相手が必要です。私はこれを「企業オーナーの人生の伴走者」と呼んでいますが、プライベート・バンカーはまさに、それが実現できる人材ではないでしょうか。

― 外資系金融機関と国内系金融機関で、PBサービスにどんな特徴がありますか。また、最適なPBサービスの選び方は。

宮本 欧米、特に欧州の金融機関は、本国においてさまざまな金融サービスを提供できる「ユニバーサルバンキング」になっています。このため、外資系金融機関は日本においてもいわば「ワンストップ」で解決策を提案しようというカルチャーがあり、一般に提案のスピードが速く、機動力があると感じます。

一方国内系金融機関も昨今、グループ強化が深まり、証券、保険なども含め総合的にサービスを提供できる態勢を整えているところが増えています。また身近に店舗がある安心感は、日本の金融機関ゆえの特徴でしょう。

ただ外資、国内勢とひとくくりに評価はできません。それぞれ強みがあり、顧客一人ひとりのニーズに応じたPBも異なるからです。事業承継などに加え、相続や不動産、その他の金融資産の扱い、また海外進出や子女の留学、社会貢献活動など、幅広い課題の優先順位を考慮したうえで、自らにあったPBサービスを提供している金融機関を選ぶようにしたいものです。

― 宮本さんは早くからPBマーケットの調査・研究に携わってこられましたが、日本におけるPBビジネスの発展についてどのように期待されていますか。

宮本 震災後に資産や居住地を海外に移す富裕層が増えたように、富裕層の方々は、一般に考えたことや感じたことをすぐに行動に移すことができます。そのため富裕層の動向に目を向けることは、今の日本の社会構造を把握するうえで、重要なヒントになると感じて調査を行ってきました。日本は税制や文化・風習などの点から、「お金持ちが住みにくい社会」と言われることもあります。ただ、そのために社会の先陣を切って新しい動きを始めるこうした方々が、次の時代へとつながるサービスや製品、社会の仕組みに消極的になるとすれば、国全体としても不幸なことです。

欧米では、著名人などの富裕層が慈善事業などに率先して参加し、社会を牽引しています。日本においても、質の高いプライベートバンキングサービスが社会を牽引する立場の方々に良い刺激を与えることで、社会をよりよく変えることができると信じています。