富裕層の信頼に応える質の高いプライベートバンキングの充実が、日本の金融市場を活性化させる。
欧州発祥のこのビジネスが今、日本で充実し、高い注目を集めている。
背景に銀行や証券の垣根を低くする法改正や、それを受けての金融機関のグループリソース強化がある。
プライベートバンキングの役割や付き合い方について、野村総合研究所 上席コンサルタントの宮本弘之氏に聞いた。
日本のプライベートバンキングビジネスが
新たな成長段階へ
― 現在、プライベートバンキング(以下、PB)サービスを取り巻く環境はどのようになっているのでしょうか。
宮本 PBの対象となるマーケットについて、野村総合研究所(以下、NRI)では、純金融資産が1億円以上の富裕層は全国に約81万世帯で、資産の総額は約188兆円と推計しています。日本の個人金融資産は約1500兆円で、そこから負債を引くと約1138兆円とされます。そのうち、約17%が富裕層の資産というわけですから、その存在はかなり大きいといえます。
日本の富裕層マーケットは米国に次いで世界第2位の規模と言われていますが、NRIの調査では、対象となる人のうち、実際にPBサービスを利用している人は約3分の1にすぎず、まだ普及しているとは言えません。
ただ、ニーズは高いと感じています。現代の日本の富裕層の方々は、主に戦後に創業した企業オーナーであり、上場企業のオーナー経営者の中には、資産の8割以上が自社株という人もいます。このようなオーナーは、自社の事業の拡大のほか、事業承継など、複雑な課題を抱えていることが少なくありません。
こうした状況に対してPBサービスは、金融機関の総合力でソリューションを提案して共に解決へとつなげようというものですから、もっと利用されてしかるべきものだと思います。
― PBサービスへの期待が高まるわけですが、金融機関はどのような取り組みを進めていますか。
宮本 国内系、外資系の違いを問わず、多くの金融機関では現在、PBサービスを強化しようと、リソースを投入し整備を図っています。これを大きく後押ししたのが、いわゆる「銀行・証券の垣根」を定めるファイアーウォール規制(業界分野規制)の緩和です。これによって、銀証が連携した運営が可能になりました。
これを受けて国内メガバンクではグループ内の連携を強化、ワンストップ的なPBサービスの提供が進み、欧州の「ユニバーサルバンキング」に近づきました。
金融機関の立場から見ますと、国内市場が成熟する中で富裕層を対象にしたPBサービスは、数少ない有望なマーケットとして期待され、いわば顧客、金融機関双方のニーズが合致したビジネスとして、今後活性化していくだろうと見ています。