プロフェッショナリズムと適応力を育てる 東洋大学
佐山 そのほか、イノベーションで重要なことは過去をベースに考えるのではなく、ほかの誰もやっていないことをやることです。明らかに面白いことは、すでにみんなが手を付けています。逆に、成功する確率が1%で多くの人が「無理だろう」「できるはずない」と思うことでも、それを100回繰り返せば、成功する期待値は100%まで高まります。難しくてもトライし続ける姿勢がイノベーションを生むのだと思います。仕事や進路も同じことです。私は、33歳でメーカーの研究開発部門から銀行のM&A部門に転身し、44歳でファンドを共同設立しました。別の世界をのぞいて、「面白そうだ」と感じて突き進んだらここまで来ました。初めから鳥瞰図があって、キャリアプランを描いていたわけではありません。その時に思いつく長期プランは、その時の経験や知識の中で考えられる小さなものでしかないのです。
今村 最近の若者は、失敗を怖れる気持ちが強いと感じます。佐山さんが「面白そう」と思ったことに突き進んだように、若いうちにもっと失敗して恥をかいて、立ち直る力を身に付けることが必要かもしれません。グローバル・イノベーション学科の学びは、「Travel(旅して)、Play(演じて)、Dialogue(対話する)」をキーワードに掲げています。「Travel」は、明治期に3度の世界旅行をした本学の創立者、井上円了先生にならい、できるだけ学生に海外経験を積ませ、海外の現場を体感させること。日本人学生には交換留学制度を使って1年間の海外留学を課します。「Play」は、face to faceのコミュニケーション能力を高めるため、英語の「演劇ワークショップ」の手法を取り入れた演習です。そして、相手を論破しようとするディベート(討論)ではなく、一定の妥協も含めて交渉する態度の「Dialogue」(対話)を重視しようと考えています。
佐山 それは面白そうですね。半強制的にでも学生に最初の一歩を踏み出させ、海外の現場で今起きていることを体験させるなどのグローバル・イノベーション学科の教育で、これまでにないタイプの人材が育つことが期待できます。
今村 日本の働き方が問われている今、従来のように会社に終身帰属するメンバーシップ型雇用より、プロフェッショナルとして転職できるジョブ型雇用の方が望ましくなってきていると思います。
佐山 私も20代までは、大企業に入り、偉くなりたいと考えていました。ただ、それに必要なのは、社内価値を高めることであって、それは社外で通用する市場価値とは全く別物なのです。しかも、優秀だから、実績を上げたからといって必ずしも社長になれる訳ではない大企業では、そんな不確実なものに賭けるのは実にリスキーであるということに30歳で気がつきました。会社と個人の関係はギブ・アンド・テイクだと思います。社外でも通用する「素の自分」の力が十分かどうかを自己評価したうえで、会社に貢献しても、それに応じたものを会社から得られないのであれば、次を考えるべきです。
今村 グローバル・イノベーション学科では、自らの高度な知識やスキルを組織・企業・国家の境界を越えて提供し、さらにその活動を通じて自らの知識やスキルを高めていく「ナレッジ・エンジェルズ」と呼ぶべき人材を輩出することを目指します。そうした人材は、人工知能(AI)に人の仕事が奪われる時代でも、生き残れるはずです。何が起こるかわからない未来に適応できる力を学生に身に付けさせたいのです。