辰巳 テレビ番組「くいしん坊!万才」のリポーターを務めた1991年から3年間、全国各地に出かけ、さまざまなものを食べ、オリジナリティあふれる発想と熱意を持った多くの人と出会いました。その中で、地方の課題に触れ、同時に底力も感じてきました。そういった地方を応援したいとの思いが伝わったのでしょう、全国各地の観光大使に任命されています。東京一極集中のひずみを是正して地方を元気にするには、経済波及効果のすそ野が広い観光の振興が欠かせません。住民の理解と人材の育成が大切なポイントです。それには大学の観光学の教育と研究が大きな役割を果たすでしょう。
飯嶋 本学は、前回の東京オリンピック前年にあたる1963年、当時の短期大学に日本で初めての観光学科を設立しました。以来、50年以上にわたって観光業界に人材を輩出してきた実績と人脈があります。グローバル化が進む中、2001年に4年制の国際地域学部国際観光学科に移行し、2017年4月には国際観光学科を発展させて新たに国際観光学部を立ち上げます。国際観光学部には、観光産業分野として、旅行産業で求められるマーケティング力や旅行企画能力を学ぶ「ツーリズムコース」、計数や法律にも強いマネジメント人材を育成する「エグゼクティブマネジメントコース」、航空会社やホテルの現場最前線で優れたサービスを提供できる人材の育成を目指す「サービスコミュニケーションコース」、観光産業の現場で実際に働きながら即戦力人材を育てる「観光プロフェッショナルコース」を設け、観光政策分野では、地域、国家、世界の視点から、観光行政特有の課題を解決し、観光政策を具現化できる人材を育成する「観光政策コース」を設けます。
俳優としてテレビ、映画、舞台に数多く出演。食通・ワイン通としても知られ、1991~1993年には「くいしん坊!万才」のレポーターを務めたほか、日本ソムリエ協会の名誉ソムリエ、日本ワインを愛する会副会長なども務める。さらに、観光庁アドバイザー(2011年~)をはじめ、高知県、福島県(会津地方)、山梨県(甲州市)、奈良市など全国各地の観光大使として、地域の観光振興にも貢献している
辰巳 それはすばらしい。国際観光学部での学びは、観光を現場のサービスとしてとらえるか、経営・経済、観光政策の視点で取り組むか、アプローチによってさまざまな学び方ができそうですね。最近は、外国人旅行者数の増加が話題になっていますが、彼らがあまり訪れない地方にもまだまだ面白い所がたくさんあります。たとえば、江戸から明治期に北前船の寄港地として栄えた富山市岩瀬地区は、風情ある町並みを修景し、観光スポットとして、にぎわいを取り戻しています。これは「満寿泉」で有名な桝田酒造の五代目当主の力によるところが大きいようです。いい意味のパトロンですね。郷土愛あふれるパトロン。こうした地域振興の動きを加速させるには、たとえば地元の歴史を小・中学校のうちに教えて、「生まれ育った町や村が好きでたまらない」「故郷をみんなに知ってほしい」という郷土愛を育んでいくことが何よりも大切です。そういった取り組みが、地域振興の核となる人材や、そのような人材を周りで支えていく人材を育成し、ひいては観光のグローバル化へとつながるのだと思います。
飯嶋好彦
アルスター大学大学院国際経営学科修士課程修了。博士(経営学)、MBA。東洋大学短期大学観光学科を経て現職。専門はホテル経営、サービス・マネジメント。観光産業を中心としたサービス・マネジメント、サービス・マーケティング、ホテルマネジメントなどの研究、教育に取り組む。2017年4月より新設される国際観光学部国際観光学科の学部長に就任予定
飯嶋 同感です。グローバル化への対応の際には、日本人としての基礎がないと、それこそ根無し草になってしまいます。国際観光学部では、基盤教育(教養科目)で、日本の歴史、文化をしっかり学び、その基礎の上に専門領域を積み上げたいと考えています。
辰巳 地方を見てきた経験からお話しすると、地域振興でもう一つの核となるのは、熱意を持って夢を語れる人材だと思います。函館で毎年2回開催されている「函館西部地区バル街」は2004年にスタートし、全国のバル街イベントの先駆けになりました。私は第1回から参加していますが、本当に楽しいです。バル街の発案者であり、地元のスペイン・バスク料理店のオーナーシェフ深谷宏治さんは本当に熱い人。彼の語る夢が若い人達を引きつけていることが、原動力になっていると感じます。
飯嶋 テストで測れる知識だけでは、観光はうまくいきません。夢や熱意、思いやり、感性といった人間的な魅力も重要なので、国際観光学部では学習能力が高い学生と、人間的な魅力ある学生のバランスをとって募りたいと考えています。たとえば、今年度実施したある入試の課題レポートでは、感性を問うような問題を出題しました。地域貢献への強い思いを持った学生を、離島や厳しい状況にある自治体の高校から推薦してもらうことも検討しています。また、現場で地元の人々と連携し、魅力的な観光資源を発掘するといった実践的な学びにも注力します。
辰巳 学生の現場での経験は貴重な学びになりますね。テクノロジーの発達に伴って、直接観光地に行かず、バーチャルな体験だけで満足してしまうことが少なくありません。テレビの旅番組の視聴や、地方の自治体が東京に開いているアンテナショップでの買い物、テレビドラマや映画の舞台として取り上げられたことで、その観光地に行った気になるのではなく、実際に観光客が観光地を訪れるような情報発信の方法を考えていく必要があるのかもしれません。
飯嶋 確かに、効果的な情報発信の方法は重要なテーマですね。外国人旅行者はほかの外国人がブログやツイッターで紹介した場所を訪れる傾向があり、日本の政府や自治体の公式情報より、旅行者同士のクチコミの方が高い信用を集めています。
辰巳 いまはSNSの時代ですから、写真の効果は絶大です。写真の上手な撮り方を教えるのもいいかもしれません。あるいは写真に撮りたくなる風景づくりなども研究対象として面白いと思います。学生がそういうことも学ぶことができれば、将来にきっと役立つでしょう。大学は観光地の魅力を発信していくために必要となる、日本文化への理解、教養を多くの学生に身に付けさせていただきたいですね。そして観光する側も迎える側も、リベラルアーツが大切というのが私の持論です。
飯嶋 おっしゃるとおり、これからの観光産業には基礎となる教養があり、地域の課題を解決する人材が求められます。また、これから日本が観光立国を目指すにあたっては、観光政策を担当する公務員など、国際観光学部で学ぶ学生が将来活躍できる領域が、今後さらに広がるでしょう。国際観光学部では、実践的な教育を通じて学生の企画・提案力を育て、プラスアルファの能力を持った人材を育成することに力を尽くします。
辰巳 東洋大学の新たな国際観光学部が、これまでにない実践的な取り組みで日本の観光が抱える課題に切り込み、解決していける人材を輩出することを期待しています。