企業の競争力を高めるためには、
経営者自らが、合理的で科学的な
人事管理に取り組むべき。
その実現に向け、企業はどのような課題を抱えているのか。
人事分野の定量分析のリーディングカンパニー「トランストラクチャ」の林明文社長と、人材に関わる分野を広く研究する学習院大学の今野浩一郎教授が話し合った。
なぜ、日本企業では
人事の課題解決が進まないのか
林:日本企業が厳しい経営環境下で生き残るには、経営資源の一つである、「人」のポテンシャルを高めることが不可欠です。
「わが社は人が財産」と語る経営者は少なくないですが、実際に従業員の生産性やコストなどについて適正かどうかを判断できている人は少ないように感じます。人件費についても、依然として職能資格制度などの年功で決めている企業もあります。
今野:私は20年以上前から、日本型の職能資格制度が抱える問題点を指摘してきました。従業員の高齢化の進展などにより制度自体が破綻することが明らかです。ただ、日本企業は従業員との円滑な関係を保ちたいといったところも多く、なかなか大ナタを振るうような人事改革を進めることができなかったのです。
林:確かに。経営者も人事部長も、自分の任期中には波風を立てたくないというところでしょうね。時折、人事改革を進めた企業が話題になることがありますが、ほとんど、強力なトップダウンによるものです。経営者自らが率先して取り組まなければ、人事の課題解決にはできません。
今野:本来、人事施策は、5 年後、10年後に自社はどうありたいかという経営戦略や経営計画に基づいていなければなりません。これにより、適正な人材開発、配置あるいは人員数なども導かれるはずです。しかし現状は、景気がよくなれば新卒の採用数を増やし、悪くなれば減らすといった、場当たり的な企業が多く見られます。