進化するエコオフィスを経営の力に
担当部門のみならずトップが省エネを推進すべき
―― 少なくとも、消費者の意識は一変したと言えるのではないでしょうか。
中上 そうですね。その点は、省エネを進めるうえで大きなプラスになっています。地下鉄の駅や百貨店など、多くの人が集まる場所であれば、いまやどこに行っても照明を間引いていますし、過剰に冷房を効かせることも少なくなりました。それはひとえに消費者からのクレームがなくなったからです。「明るい、暗い」「暑い、寒い」といった感覚には個人差があるのに、いままではクレームを恐れて「足りない」という人の意見を優先してきたんですね。こうして知らず知らずのうちに過剰になったエネルギーのムダを一つずつ見直していくのが省エネの第一歩です。
これまでは設計者側にも問題がありました。本当にこの明るさで良かったのか、エレベーターの台数は適正だったかなど、建物に組み込んだ条件をユーザーが設計者の意図どおりに使っているかをきちんと検証すれば、必要な技術とそうでない技術が明確になり、もっと洗練された建物になるはずです。こうしたPDCAは欧米で主流であり、技術者の開発マインドにもつながるのではないかと考えています。
ただ最近、日本もだんだんと変わってきていて、先進的なデベロッパーが省エネビルを売りものにするようになっています。たとえば、人がいるタスク域、それ以外をアンビエント域に分け必要な場所に効率よく働くタスク・アンビエント照明・空調が、ほとんどの新築ビルに導入されているのは、技術の進歩とユーザーの声に耳を傾けた結果でしょう。
すでに米国では、省エネビルがラベリングされており、省エネビルへの入居が優良企業の最低条件になっています。省エネビルであれば賃料が高くなる、割り増し融資ができる、入居していることがステイタスになるとなれば、おのずとZEB (Zero EnergyBuilding : 年間の一次エネルギー消費量がネットでゼロまたはおおむねゼロとなる建築物)に向かっていくことになるでしょう。
―― こうした動きに、もっとドライブをかけていかなければなりません。
中上 いまのエネルギーの議論は、診断をしないで処方箋を書こうとしています。まずは現場のエネルギー調査を行って診断するのが基本でしょう。一口にビルと言っても、超高層から中小規模のビルまでさまざまであり、個別の事情に合わせた処方箋が必要になります。現在、鉄・紙パルプ・石油化学・窯業で産業部門のエネルギーの7割を使っていると言われますが、エネルギーの使用状況が似ている業種や業態ごと、あるいは地域ごとに処方箋を考えるのも一つの手です。省エネは一人ひとりができることはわずかですが、それが集まると大きな取り組みになります。誰もが当事者であることを忘れずに、これからも継続的に取り組んでほしいですね。
特に企業においては、設備部門や環境担当の部署だけでなく、トップ自らが旗振り役となって省エネを強力に進めていくべきです。光熱費の削減による経営への効果はさておき、もっと省エネを戦略的にビジネスに活用してほしいと考えています。いまは節電対応の陰に隠れてしまいがちですが、地球環境問題の解決において企業の果たすべき役割は大きい。企業の持続的成長を考えるうえでも欠かせない経営課題であり、もちろんその中に省エネも含まれます。
ある大手自動車メーカーは、環境にやさしいハイブリッドカーを業界に先駆けて販売することで世界的な評価を獲得しました。世界共通そして最大のテーマである地球環境保全に積極的に取り組んで、ブランド価値の向上につなげていってほしいと考えています。これまでの枠組みを見直してエネルギーをゼロから考える、いまは絶好のチャンスです。