使う側もつくる側も発想の転換が必要
―― 今夏も政府は、企業や家庭に節電を要請する見込みです。
中上 いずれの電力管内でも、電力の安定供給に最低限必要とされる予備率3%以上を確保できる見通しですが、関西や九州など一部の地域においては予備率が下限の3%まで低下することが予想され厳しい状況にあります。本来、1割程度の予備率が望ましいことを考えると、電力不足の危険が高まり、停電の可能性があることも想定しておかなくてはなりません。
会長 中上英俊
横浜国立大学工学部建築学科卒業。同大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。 東京大学大学院工学系研究科建築学専門課程博士課程修了後、住環境計画研究所を創設し現在に至る。 工学博士。東京工業大学特任教授、東京大学生産技術研究所顧問研究員、早稲田大学客員教授。 現在、経済産業省総合資源エネルギー調査会委員として省エネルギー部会部会長を務める
震災以降、原子力発電所の代替としてフル稼働している石油火力発電所の設備の古さも気になります。第二次オイルショック以降、石油火力発電所の新設は禁止されてきたために、どの石油火力発電所も40年生なのです。万一、電力が足りないと困るからと温存してきただけに、必ずしもメンテナンスが十分とは言い難く不測の事態が発生することもあり得ます。あまり危機感をあおるのもよくありませんが、危機が身近にあることを理解し、意識して電気とつきあっていく必要があるでしょう。
―― エネルギーに対するマインドセットを変える必要がありますね。
中上 いままで使う側は、いつでも好きな時に好きなだけ電気を使うことが保障されていました。それが資源のない日本において実現できるのは、電気のエネルギー源をいつでも買って来ることができたからです。幸いシェールガスの登場によって、世界は売り手市場から買い手市場に変わり、石油も天然ガスも価格は下落傾向にありますが、日本はその恩恵をいまだ受けられずにいます。化石燃料がダメなら原子力というカードが切れないために足元を見られているのです。好きな時に好きなだけ電気が使える状況を支える基盤が、こうした脆弱な構造にあることを肝に銘じ、電力の供給が厳しい時には電気の使い方を控えるなど、つくる側を意識した効率的な使い方に根底から変えていかなければなりません。
一方、つくる側も電力需要のピークに合わせて発電所を建設するのではなく、契約の内容によって需要を平準化させる工夫をするなど発想の転換が求められます。いま、省エネルギー法でも、ピークカットを行った企業を評価するための仕組みづくりを進めています。ものづくりの工程を全面的に変えるのは難しいですが、自家発電や蓄電池などによってピークカットに貢献した企業は、「省エネを行った」とみなしてボーナス換算を行うなど、来春以降の制度化を目指しています。
担当部門のみならずトップが省エネを推進すべき
―― 少なくとも、消費者の意識は一変したと言えるのではないでしょうか。
中上 そうですね。その点は、省エネを進めるうえで大きなプラスになっています。地下鉄の駅や百貨店など、多くの人が集まる場所であれば、いまやどこに行っても照明を間引いていますし、過剰に冷房を効かせることも少なくなりました。それはひとえに消費者からのクレームがなくなったからです。「明るい、暗い」「暑い、寒い」といった感覚には個人差があるのに、いままではクレームを恐れて「足りない」という人の意見を優先してきたんですね。こうして知らず知らずのうちに過剰になったエネルギーのムダを一つずつ見直していくのが省エネの第一歩です。
これまでは設計者側にも問題がありました。本当にこの明るさで良かったのか、エレベーターの台数は適正だったかなど、建物に組み込んだ条件をユーザーが設計者の意図どおりに使っているかをきちんと検証すれば、必要な技術とそうでない技術が明確になり、もっと洗練された建物になるはずです。こうしたPDCAは欧米で主流であり、技術者の開発マインドにもつながるのではないかと考えています。
ただ最近、日本もだんだんと変わってきていて、先進的なデベロッパーが省エネビルを売りものにするようになっています。たとえば、人がいるタスク域、それ以外をアンビエント域に分け必要な場所に効率よく働くタスク・アンビエント照明・空調が、ほとんどの新築ビルに導入されているのは、技術の進歩とユーザーの声に耳を傾けた結果でしょう。
すでに米国では、省エネビルがラベリングされており、省エネビルへの入居が優良企業の最低条件になっています。省エネビルであれば賃料が高くなる、割り増し融資ができる、入居していることがステイタスになるとなれば、おのずとZEB (Zero EnergyBuilding : 年間の一次エネルギー消費量がネットでゼロまたはおおむねゼロとなる建築物)に向かっていくことになるでしょう。
―― こうした動きに、もっとドライブをかけていかなければなりません。
中上 いまのエネルギーの議論は、診断をしないで処方箋を書こうとしています。まずは現場のエネルギー調査を行って診断するのが基本でしょう。一口にビルと言っても、超高層から中小規模のビルまでさまざまであり、個別の事情に合わせた処方箋が必要になります。現在、鉄・紙パルプ・石油化学・窯業で産業部門のエネルギーの7割を使っていると言われますが、エネルギーの使用状況が似ている業種や業態ごと、あるいは地域ごとに処方箋を考えるのも一つの手です。省エネは一人ひとりができることはわずかですが、それが集まると大きな取り組みになります。誰もが当事者であることを忘れずに、これからも継続的に取り組んでほしいですね。
特に企業においては、設備部門や環境担当の部署だけでなく、トップ自らが旗振り役となって省エネを強力に進めていくべきです。光熱費の削減による経営への効果はさておき、もっと省エネを戦略的にビジネスに活用してほしいと考えています。いまは節電対応の陰に隠れてしまいがちですが、地球環境問題の解決において企業の果たすべき役割は大きい。企業の持続的成長を考えるうえでも欠かせない経営課題であり、もちろんその中に省エネも含まれます。
ある大手自動車メーカーは、環境にやさしいハイブリッドカーを業界に先駆けて販売することで世界的な評価を獲得しました。世界共通そして最大のテーマである地球環境保全に積極的に取り組んで、ブランド価値の向上につなげていってほしいと考えています。これまでの枠組みを見直してエネルギーをゼロから考える、いまは絶好のチャンスです。