少子高齢化の影響が懸念される中にあって、快進撃できるのはなぜか。
そこには、つねに新たな発想を求め、細部にまでこだわった工夫を積み重ねる姿があった。
家庭用リチウムイオン蓄電池を搭載した
防災配慮型賃貸住宅を開発
賃貸住宅事業の売上高が拡大を続けている。2012年度の5925億円が15年度には8801億円に。3年間で3000億円近く売り上げを伸ばしたことになる。16年度の目標は、9450億円。はたから見るとまさに絶好調という勢いだが、「ゆるやかな上昇に過ぎません」と語るのは、賃貸住宅事業を担当する堀福次郎取締役専務執行役員。「マーケットが減少傾向にある中で売り上げを伸ばしていくためには、さまざまな工夫、これまでにない発想など、あらゆる手段を駆使し続けていかなくてはなりません」と続ける。
取締役専務執行役員
堀 福次郎
カギを握る一つは販売力だ。この6年間で約70カ所も営業所を増やしてきた。堀氏は「これからもっと増やします」とさらに攻勢を強める構えだ。
「特に重要なのは1都3県。このエリアは人口が増えている地域が多い。特に東京は新築住宅の6割近くが賃貸です。集中的に経営資源を投入していきます」
もう一つ、注力しているのは商品力の強化だ。たとえば16年7月に発売した「セジュールNewルピナ」は北欧風をイメージした外観に、白の窓枠と破風が印象的なデザインが特徴的だが、実は全戸に家庭用リチウムイオン蓄電池が搭載されている。外観デザインにこだわりながら、防災にも配慮した賃貸住宅なのである。
「土地オーナー様の先にいる
ご入居者というもう一人のお客様」
「停電となると、家庭用リチウムイオン蓄電池が自動的に放電モードに切り替わり、非常用電源として電気を供給します。フルに充電した状態であれば、冷蔵庫や照明器具を使った状態でも最長8時間程度は電気を供給することができます」と語る堀氏は、10年に賃貸住宅事業の担当就任時から商品開発についてずっと言い続けてきたことがある。「ご入居者目線で商品を開発する」ということだ
「賃貸住宅事業にとって第一義的なお客様は土地オーナー様です。土地オーナー様のニーズに合った最適なプランを提案するのが当社の役割です。しかし土地オーナー様の先には、ご入居者というもう一人のお客様がいるのです。ご入居者に喜ばれ、『こんな家に住んでみたい』と思われるような商品でなければ、満室にはなりません。土地オーナー様の満足と安心を実現するためには、ご入居者のニーズに適した商品を開発することが重要になるのです」
入居者目線で開発した商品の好例が防犯配慮型賃貸住宅だ。業界に先駆けてホームセキュリティシステムを標準装備したタイプは、発売して6年で20万世帯分を売る大ヒット商品になった。しかも今もなお人気商品の座を守っている。女性向けの賃貸住宅のタイプでは、1坪タイプの浴室やウォークインクローゼットなどを装備するなど、細かい配慮も人気を支えている。
「従来、賃貸住宅では収納スペースはあまり重視されていませんでした。しかし、あえて専有面積の10%を収納スペースに充当する設計を奨励しているのです。たとえば、最近はゴルフをする女性も増えていますから、キャディバッグも収納できるシューズインクローゼットを設けるなど、多様なニーズにきめ細かく対応することが重要だと考えています」
サービスアパートメントで
新たな需要の掘り起こしも
15年9月1日の防災の日には、緊急避難スペース付賃貸住宅「セジュール オッツW-ev」も発売した。鉄骨ラーメン構造のタワーで階段室をつくり、屋上には緊急避難スペースを備えている。また、都市災害における地域防災拠点としての役割も果たせるように医療品などをストックした賃貸マンション「ロイヤルパークスER」も提案している。「土地オーナー様やご入居者のニーズにとどまらず、社会的要請に応える」(堀氏)という視点も大事にしているのだ。
こうした戦略により18年度、賃貸住宅事業領域で売上高1兆円突破という目標を掲げている。マーケットの大きな伸びが期待できない中で、この目標をいかに達成していくのか。その問いに対し堀氏からは「難しいことではありません」という答えが返ってきた。
「賃貸住宅マーケットで当社のシェアは現在、10%強しかありません。それを12%にすれば、それだけでも売り上げが2割近く伸びることになります。またマーケット全体の4割近くを占めるのは、在来工法による中高層の賃貸マンションです。この分野での当社シェアは2%未満。成長の余地はあるのです。さらに今後はインバウンド需要も視野に入れたサービスアパートメントの商品開発も強化していきます」。家具やキッチン用品などをあらかじめ装備し、部屋の掃除やベッドメイクといったサービスを提供するサービスアパートメントは、長期出張や社員の単身赴任などに利用したいという法人需要だけではなく、観光客の宿泊場所としてもニーズに対応できると期待している。「国内ではこの8月、札幌市内にオープンしました。このほか海外では、アセアン地域などでサービスアパートメントの展開を検討しています。この分野で獲得した知見やノウハウを今後は国内事業にも活用していく方針です」。
大和ハウス工業の賃貸住宅事業部門が売上高1兆円を達成する日は、意外に早くやってくるかもしれない。