
1959年設立の充実した設備を誇る診療所
河手哲雄
「ビジネスのスピードが加速する中で、商社ならではのストレスも増えていると考えています」と語るのは、人事部長の河手哲雄氏だ。大きな特徴として、海外赴任・出張の多さが挙げられる。日本と大きく時差がある国に赴くことや、タイトなスケジュールでの出張も珍しくない。「社員の健康管理のために本店・関西支社内に診療所を設置しています。海外在勤者も随時メールや電話で相談できるほか、本邦に一時帰国の際には健康診断も受診できる体制としており、疾病の治療だけでなく、その予防や早期発見にも力を入れています」(河手氏)。
伊藤誠悟
「診療所」といっても、その内容は本格的だ。所長の伊藤誠悟氏は次のように説明する。「本店の診療所は、1959(昭和34)年に設立され、以来一貫して社員の健康の維持・増進に取り組んできました。現在は、約30人の医師(非常勤含む)と、看護師や放射線技師、薬剤師、検査技師を含む約20人の医療スタッフが所属しています。健診では、健康相談や生活習慣病の予防指導も同時に行っており、異常があれば3-6カ月ごとのフォローアップ検査を予定するなどのきめ細やかな健康管理から、各専門医による治療まで実施できるのが大きな特長です」。
所内には内科、眼科、皮膚科、耳鼻咽喉科、整形外科、神経科を設置し、検査センターも有する。総合病院と比較しても見劣りしない充実した設備だ。伊藤氏は「病院は、悪くなってから行くところというイメージがあるかもしれませんが、当診療所では『健康な人をより健康に』をキーワードに掲げ、生活習慣病の対策など、日常的な健康維持・増進に力を入れています」と話す。
社員にとっても、社内診療所は頼りになる存在だろう。診療所の看護師長を務める小嶋涼子氏も「新入社員のころから定年退職されるまでの社員一人ひとりの健康管理のお手伝いをしています。中には病を得てしまう社員さんもいますが、それを乗り越えて国内外で元気に活躍されているのをみるとうれしいですね」と語るように、中長期的な健康状態を把握するホームドクターとして、自身の健康について相談できるのも大きなメリットだろう。
メンタルヘルス対策にも早期から取り組む
三菱商事では、メンタルヘルス対策にも早くから取り組んできた。伊藤氏は「メンタルヘルス対策についても1973(昭和48)年から、神経科の専門医を招いて予防、治療、再発防止などを行ってきました」と紹介する。
さらに、5年ほど前からは、社員が随時利用できるセルフチェックのほか、診療所の医師、社内外の臨床心理士・カウンセラーに相談ができる体制を整えている。今回のストレスチェックの義務化について、河手氏は「当社ではこれまでもメンタルヘルスに取り組んでおり、特別な負担は感じていません」とし、「むしろ、全員がストレスチェックを受け自身の状態を知る意味が大きいと感じています。今秋には、三菱商事に所属する国内在勤者全員のストレスチェックを実施しています」と説明する。
伊藤氏は「慢性的にストレスにさらされていることから、それに慣れてしまっている社員もいます。ある日突然、倒れてしまうといったことにもなりかねません。一方で、商社ならではのストレスもあると考えています。当社独自の課題の分析ができるという点でもアドバンテッジ リスク マネジメント(ARM)には期待しています」と語る。
三菱商事はこれまでもARMのストレスチェックやカウンセリングなどを活用してきたが、義務化にあたっては独自のチェック項目も追加し、商社固有のストレスの有無などについても検証する予定だ。人事部の春日聡美氏は「ARMにはストレスチェックの対応にとどまらず、研修内容等、当社のメンタルヘルスへの取り組み全体を相談し、頼りにしています」と話す。
同社では一定の年次の社員に対して行う研修の中でストレスへの対処法を学ぶ講義を実施しているが、このカリキュラムもARMが提供しているものだ。同社ではこのほか、新入社員のインストラクターや管理職に対するメンタルヘルス研修も行っている。同僚・上司が一体となり不調を未然に防ぐとともに、部下や同僚が不調を抱えたときの早期発見や対応などを確実に行うためだ。
診療所と一層連携し、PDCAサイクルの構築へ
河手氏は「健康への取り組みは継続が不可欠です。社員一人ひとりはもちろんのこと、同僚や上司なども含め、組織として取り組み、PDCAサイクルを回していくことが大切だと感じています」と話す。
伊藤氏は、「当社の社員は先進国以外に渡航する機会も少なくありません。エボラ出血熱やジカ熱、マラリアなども脅威になります。海外拠点と連携しながら国内外の疾病情報を収集し、予防策、治療方針や業務内容について相談することもあります。個人情報は保護しながら会社としてのベクトルを合わせ、社員の健康に取り組んでいきたいと考えています」と力を込める。
「人が財産」と語る企業は少なくないが、こと健康のことになると「個人任せ」になりがちだ。費用対効果について懸念する経営者も少なくない。それに対して河手氏は「当社は『人が最大の資産』を旗印に掲げています。社員のアウトプットを最大化するのが企業の目的とすれば、社員の健康と経営方針は一体と考えられます。当社では役員が率先して健康に取り組んでいます。診療所との連携を一層図ることで、国内外の全社員の健康を推進し、社員が何でも相談できる体制を整えたいと考えています。ARMは他社の成功事例などの知見も豊富です。パートナーとして引き続き期待しています」と語る。
まさに商社ならではの健康経営を実現しようとする三菱商事の取り組みに、引き続き注目していきたい。
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です
