高度成長期の再来
─訪日外国人観光客3000万人時代の到来─
インバウンド消費の創発と 観光立国への挑戦
【特別講演】
藤田観光の成長戦略について
~観光立国のリーディングカンパニーを目指して
宿泊特化のホテルグレイスリーやラグジュアリーのホテル椿山荘東京、リゾートの箱根ホテル小涌園などを展開する藤田観光の瀬川章氏は、15年に3.4兆円(GDPの0.7%程度)だったインバウンドの消費額を20年に8兆円、30年に15兆円にする目標達成のポイントは、「リピーターの増加と滞在日数の長期化を実現する必要があります」と指摘。インバウンド特有の外国人の多様性への対応は「地域・日本全体で連携が必要」と訴えた。同社では、FIT(個人の訪日外国人客)を取り込むため宿泊特化ホテルでもコンシェルジュ機能を充実。リゾートの泊食分離にもトライし、地元と協力して食事処を紹介するなど、エリアとして受け入れ体制の構築を図っている。ラグジュアリーでは、洋とともに和のサービスレベルアップのため「女将技塾」を設けるなど人材育成に注力。瀬川氏は「訪日客は多様性のかたまり。あらゆることをしていきたい」と語った。
【スポンサー講演Ⅱ】
なぜ日本人はインバウンド戦略を誤るのか?
マイクロアドの渡辺健太郎氏はアジアに展開する海外拠点の若手スタッフの旅行先として、日本よりも韓国の人気が高いことに触れて「日本の海外への発信力は弱まったのではないか。クールジャパンで自国をクールと形容するのも違和感がある」と指摘した。人気観光都市ランキングでの東京の順位は、アジアで6位と高くはなく「正しいポジションを見極めるべき」と主張した。マイクロアド・インバウンド・マーケティングの中山洋章氏は、外国人旅行者に情報を届けて、需要創出する必要性を強調。外国人ライターの視点も入れたコンテンツで、旅マエから旅ナカをサポートする情報プラットフォーム、時間に余裕のある中国からのクルーズ船の旅行客とコミュニケーションをとれるコンタクトポイントの開発など、同社の取り組みを紹介した。渡辺氏は「日本の素材は素晴らしいが、そのままではなく、外国人に好まれるよう再解釈すべき」と訴えた。
【出版記念講演】
新・観光立国論:
日本が観光立国になるために必要なこと
元著名金融アナリストで、現在は文化財補修の小西美術工藝社社長を務めるデービッド・アトキンソン氏は『新・観光立国論』などの著書で言及してきた日本の観光について提言した。日本の観光産業の最大の問題は多様性不足にあるとしたアトキンソン氏は「たとえば、素晴らしい山であっても、宿泊が雑魚寝の山小屋だけでは訪れる人は限られます」として、1泊数百万円から格安のものまでさまざまなホテルを選べる環境が大事とした。ビーチやスキー場はリゾートとして整備されておらず、文化財も保護が主目的で観光資源として活用されていない。満足な説明もなく「そこにあるだけ」の状況では、外国人観光客の興味を引けないとして、ネーティブチェックによる英語解説の充実、外国人観光客の目線に立った情報発信、イベント開催など具体案を示した。また、近くのアジアからだけでなく、日本まで多額の運賃をかけて訪れ、長く滞在する欧州からの観光客を増やすなど、国籍の多様化を図り、単価を上げる必要を指摘。日本の国際観光収入の対GDP比は、世界でも下位にあることを示したアトキンソン氏は「これ以上のアップサイドはないということ。日本は観光資源を磨いて発信すべきです。ビジネスマンとしての常識を持って、多様なニーズに真剣に対応すれば、観光立国化は難しくありません」とまとめた。