経営戦略フォーラム
オーナー経営の事業承継論
エムレイス
主催:東洋経済新報社
協賛:エムレイス
【特別講演】
事業承継と後継者育成
~時代に繋ぐ創業者の想い~
1987年に創業者の父の後を受けて社長に就任してから、2008年に二男に引き継ぐまでの間に、タニタを世界的な体脂肪計の計測器メーカーに育て上げた、タニタ前社長の谷田大輔氏が登壇。その21年にわたる歴史を振り返った。
谷田氏が承継した当初のタニタは3期連続で赤字を計上、年商約55億円に対して約30億円の負債を抱え、経営コンサルタントからも見放されるような状況だった。そこで谷田氏は「潰れるとしても、誰かのせいではなく、自分の決断の結果にしたい」と覚悟を決めた。ライター、調理器、体重計の三本柱の事業のうち、唯一黒字だった体重計・秤の事業へシフトし、部品の内製化を推進。製造工場を東京・板橋区から秋田県に移転するなど、経営を効率化する一方、日本初の家庭用100グラム表示デジタルヘルスメーターを開発、発売した。
「体重計ビジネスから体重ビジネスへ、コンセプトを変えることがポイントでした」と谷田氏は、事業の転機を振り返る。まず、体重ビジネス研究のために、秋田移転で空いていた板橋工場跡に、体重科学研究所、健康体重指導センターを90年に設置。「体重が重いのではなく、脂肪が多いのが肥満」と医師から教えられたのを機に、家庭用体脂肪計開発に取り組み、92年に世界初の体内脂肪計、94年に家庭用脂肪計付きヘルスメーターを発売した。谷田氏は「オンリーワンの製品なら大幅な値引きを迫られることもなく、利益を確保できます。メディアにも取り上げられ、お金をかけなくてもブランド力向上が図れます」と、世界初・日本初のメリットを強調する。
まだ中小規模だった当時の同社は、採用面でも苦労した。特に、不足していたデジタル技術者の採用を円滑にするために、候補となりそうな学生の家庭に同社の製品を贈って社名の浸透を図るといった地道な活動も続けていた。中小企業では人材育成も課題になりがちだが、谷田氏は対策として「社内組織のトップやナンバー2を新規分野に引き抜くことで、残された組織の中から人が育ってくる」という手法を紹介した。
最後に、事業承継について言及。自身が承継したことについて谷田氏は「私は四男でほとんどを営業部門で過ごしていましたが、セールスや周辺事業の開拓でやってきたことが父に認められたのだと思います」と述べた。そして、後継者選びでは、役員や谷田氏の兄弟3人の間で、話し合いをして選んでもらった候補が、自身の思いと一致したことで、二男を後継者に定めた。谷田氏は「社長がいきなり指名するのではなく、みんなが選んだのだから、みんなでサポートしてください、という形にする方が望ましいと思いました」と狙いを説明。「年を取ると失敗を怖れるようになるので、30代くらいまでのうちから決断を迫られる場面を経験させることも重要です」と、早めの後継者育成を訴えた。