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ワークスタイル変革がワークプレイスづくりを変える

  • 制作:東洋経済企画広告制作チーム
ワークスタイルを変革しようという潮流を受け、オフィス、いわゆるワークプレイスづくりの考え方も大きく変容している。実際、ハードからソフトまで新しいオフィスのあり方が続々と登場し、選択肢も増えているようだ。これからのワークスタイルに求められる機能やマネジメント層が果たすべき役割も変わっていくだろう。こうした新しい動きをどのように読み解けばよいのだろうか。その答えを探しに、東京工業大学妹尾大先生の研究室にうかがった。
妹尾 大 Senoo Dai
東京工業大学
工学院経営工学系准教授
1998年一橋大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(商学)。北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助手を経て現職。研究領域は、経営組織論、経営戦略論、知識・情報システム

―ワークスタイル変革が注目されている背景をどのように分析されていますか。

妹尾 主たる要素が二つあると考えています。まず一つ目の要素が、多くの企業が「オープンイノベーション」を指向し始めたことです。かつてのイノベーションは組織内で完結する活動に目が向けられていました。しかし、情報技術の進歩によって社外の資源に容易にアクセスできるようになった今日においては、社内の資源だけでイノベーションを起こすというのは不経済です。顧客からの声を積極的に集めたり、パートナーと協業したりすることで、外部の力を使いつつイノベーションを起こす時代に変わってきているのです。こうしたオープンイノベーションを実現するためには、これまでの働き方を見直さなければなりません。

もう一つの要素としては、市場や技術の予測可能性が低くなったために「即興的な対応」が重要となっていることが挙げられます。現在と同種の労働が将来も価値を生み続けるという確信が得られないので、労働者を囲い込み定年まで働いてもらうという終身雇用制度の維持は困難となりました。音楽でたとえるなら、これまではクラシックの人気曲を楽譜どおりに演奏させればチケットが売れるメドが立っていたのに、そうした計画が立てられないほど聴衆の楽曲への好みが揺れ動き、新しい楽器も続々と登場してくる、という時代が来たようなものです。市場や技術の変化に合わせて、その都度プロジェクトを編成する柔軟性が必要です。環境変化に対応する働き方は、有機的組織や権限委譲といった概念で、オープンイノベーション以前から指摘されていました。

これら二つの要素を考慮し、組織論の観点も入れたフレームワークを作成しました(図参照)。縦軸は内部の知を重視する「インターナル」か、外部の知を重視する「エクスターナル」かで分けます。横軸は計画の遂行を重視する「コントロール」か、即興的対応を重視する「フレキシブル」かで分けます。こうして整理すると、企業組織の主たる活動方針が、左下のAから右上のDへと変遷してきたのではないかと考えられます。Aでは内部に閉じた画一的なワークスタイルが求められます。これとは異なりDでは外部に開かれた多様なワークスタイルが求められます。

―ワークスタイルの変化に伴い、ワークプレイスにはどのような要件が求められるようになるのでしょうか。

妹尾 ワークプレイスに求められる要件は大きく変わってきています。労働者一人ひとりの個人作業に焦点が当たっていた時代には「快適に作業できる」環境の整備が重視されていました。個人用スペースにこもって、集中して単独作業を進めることが労働者のあこがれでした。しかし、人と人とのコミュニケーションから新しい知識が生まれるという考え方が普及すると、いかに会話が弾むかという観点でオフィスがデザインされるようになっていきます。

さらには、同じ部門だけでなく、他部門の異質な知識に接して起こる化学反応が知識創造型チームワークの秘訣であるとわかってからは、フリーアドレス制の導入や共用打ち合わせスペースの充実などの試みが増えてきました。

開放的なワークスタイルを支えるという観点で、たとえば来客を増やす仕掛けは重要です。実際に、来客数をKPI(重要業績評価指標)の一つとして掲げている企業もあります。来客を増やして、顧客や取引先の持つ知識を獲得したり、一緒に新たな知識を創造したりすることのできるワークプレイスは、今後、さらに注目されていくでしょう。

そして、開放的ワークスタイル支援という観点をさらに推進すると、スポットの来客を増やすだけでなく、外部の人に長時間滞在してもらえるようなワークプレイスの設置という施策に到達するはずです。最近は、大企業に所属しながらも、外部のコワーキングスペースを利用する人が増えてきています。いくつかの企業はすでに、コワーキングスペースを自社オフィス近くに設け、そこを利用する他社社員と自社社員との相互作用を促進しています。企業の境界を飛び越えたコミュニティづくりは、開放的で多様なワークスタイル(図のD)を可能にする有効な手だてとして、今後も取り組む企業が増えることでしょう。

―新しいワークプレイスが経営にもたらす影響について教えてください。

妹尾 問題解決から問題発見へと経営の力点がシフトするのではないかと思います。生産性の向上は多くの企業に共通する主要経営課題です。そして生産性向上の方法は、投入コストを減らすか、産出価値を増やすかの二つに集約されます。ただし、ここで気をつけなくてはならないのは、既存の投入物、既存の産出物にとらわれない、ということです。開放的で多様なワークスタイルを可能にする新しいワークプレイスは、イノベーションの本質である「新結合」を促します。既存の投入物や産出物の量の調整ではなく、新規の投入物や産出物を発見する行為の重要性に気づく機会が増えるでしょう。

また、人材育成にも影響は及ぶでしょう。ある特定職能のスペシャリストを養成するというよりは、複数の視点から物事を見ることのできるゼネラリストの養成に新しいワークプレイスは向いていると思われるからです。

ちょっと違う切り口では、ワークプレイスが経営にもたらす影響とは逆方向の作用かもしれませんが、マネジメント層がワークプレイスを利用して従業員や社会にメッセージを送る頻度も増えるのではないかと思っています。たとえば「我が社では、複数のコミュニティを橋渡しするようなプロデューサー的人材を優遇します」というメッセージの伝達は、口頭や文書で述べるだけでなく、たこつぼ型ワークプレイスを廃して新しいワークプレイスに少なからぬ投資をしたという事実によっても強化されるはずです。

―ワークプレイスづくりも、マネジメント層の大切な役割になっているのですね。

妹尾 はい。かつての「内部×計画」型の方針において、上司の役割は部下が与えた仕事をちゃんとやっているかどうかを監督することでした。しかし、開放的で多様なワークスタイルは、監督されることに馴染みません。イノベーションを起こすためには、与えられた仕事をこなす活動ではなく、他部門や社外の人間を「呼び寄せ」たり、「巻き込ん」だりしながら新しい仕事を作る活動に従事すべきです。こうした活動の足かせになりかねない監督ではなく、活動の基盤となる関係性を構築する「場づくり」こそが上司の役割になっていると考えます。関係性である「場」の創出には、ワークプレイスづくりの要諦である、空間と制度の設計がカギとなります。

ワークプレイスづくりはこれまで社内の一部の部署や担当者だけが関与する傾向にありました。しかし今後は、そこで働く事業部の人たちが自ら積極的に関与していく必要があるでしょう。経営戦略とワークスタイル、ワークプレイスはすべて地続きなのですから。