マーケティング力と顧客目線を備えた人財を 東洋大学

アトキンソン マーケティングの他にも、海外と比較して日本の観光分野に足りないのが、プレゼンテーション能力だと思います。文化財の仕事に携わっていると気づくのですが、日本では多くの国宝や重要文化財などがあっても、中身を重視した解説や展示がされておらず、観光素材として生かす環境が整っていません。おもてなしや治安の良さ、正確なダイヤで運行される新幹線などはすばらしいとしても、わざわざそれらを求めて観光客が訪日するわけではありません。観光地を訪れると、どんな楽しみがあるか、どんなことを学べるかを示して素材を磨き上げるとともに、観光客を楽しませる環境整備が必要でしょう。
矢ヶ崎 確かに、日本人の観光旅行は「物見遊山」という言葉に象徴されるように、「見る」観光スタイルが中心でした。見るだけなら一度きりで満足し、その後は再び訪問しません。しかし、観光客のニーズは世界的に「体験する」観光スタイルへと移っています。人口が減る中では、一度きりの訪問で終わらせず、「また来たい」と思ってもらえるリピーターの獲得も必要でしょう。ただ、昔からのやり方を踏襲してきた観光事業者には、そうした課題意識がなかなか浸透していません。そういった意味でも、若い世代の育成、意識向上を図ることが急務だと考えています。
アトキンソン しかしながら、日本の大学の観光学部は、ホテルや旅行会社に就職する人材育成に偏っている印象があります。
矢ヶ崎 おっしゃるとおり、日本の大学の観光学部は発展途上の段階ですが、これからの観光学はマーケティング、経営、文化、環境など、さまざまな分野の専門家を入れてチームを作り、日本の観光について取り組む必要があると考えています。東洋大学の国際観光学科は、教員数を大幅に充実させて、2017年度に国際観光学部※として新たにスタートを切る予定です。また、カリキュラムは、ツーリズム、エグセクティブマネジメント、サービスコミュニケーション、観光プロフェッショナルの4コースに分かれて幅広い知識教養や実務能力を身に付ける「観光産業分野」と、地域・国家・世界の視点から観光行政の課題解決と政策具現化能力を身に付ける「観光政策分野」の二つの分野をカバーしています。さらに、多様な人々が知恵を出し合い、観光の期待値・満足度を向上させることができる人財や、国・地方レベルで政策を担える人財を育成する場にしたいと考えています。

アトキンソン これからの観光産業・行政を担う人財を輩出するために、東洋大学には、物事の本質を捉え、論理的に考えながら、より良い方向に変えていくことができる人財を育ててほしいと思います。
矢ヶ崎 国際観光学部※で学ぶ学生には、積極的に現場に出て、理論と実際の間を行き来することによって、思考力を鍛えてもらいたいと思っています。このために、東洋大学は、海外の著名な大学をはじめとする機関・企業と連携して、留学プログラムはもちろん、グローバルな実務研修や語学研修等の多彩な機会を提供していきます。現場での経験を通じて、学生はさまざまな気づきを得ますので、それをさらに広げ深める学びを提供することが、国際観光学部※の役割です。自分なりに考える力を大事にする東洋大学らしい学生を育てていきたいと思います。
※2017年度開設予定(設置構想中)。学部・学科名は仮称であり、計画内容は変更になる可能性があります。