東洋大学

オープンな連携でイノベーションを 東洋大学

拡大
縮小
東洋大学は、1887年に明治の哲学者・井上円了によって創立された約130年の歴史を持つ総合大学だ。哲学を建学の理念とする唯一の大学であり、近年では駅伝や水泳、陸上などの活躍からスポーツが盛んな大学というイメージも強い。一方で、2014年度には、我が国の高等教育の国際競争力の向上を目的に、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学を重点支援する、文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援 タイプB(グローバル化牽引型)」に採択され、2017年には新学部・学科の開設を構想するなど、グローバル人財育成の取り組みを加速している。そこで、ここでは 「世界で活躍できる人財の条件」と題し、グローバル社会で活躍するために必要な能力とは何か、どうしたら育てることができるのかを全12回の連載を通して明らかにしていく。
第9回は、IT業界の変遷とともにキャリアを歩んできた、前グーグル日本法人名誉会長の村上憲郎氏と、2017年度に東洋大学で情報連携学部の設置を構想する坂村健氏が対談。ITの世界に求められるスキルや、「連携」の重要性などについて語り合った。

 

村上憲郎
前グーグル日本法人名誉会長
京都大学工学部卒業後、日立電子入社。その後、日本DEC、同社米国本社勤務、米インフォミックス副社長兼日本法人社長、ノーザンテレコムジャパン社長、ドーセントジャパン社長など歴任。その中でミニコンやAIの開発、営業、マネジメントに携わる。2003年グーグル米国本社副社長兼日本法人代表取締役社長。2009~10年まで名誉会長を務める

坂村 村上さんは、どういった経緯でIT業界に進まれたのですか。

村上 大学の頃に見た映画『2001年宇宙の旅』に登場する人工知能型コンピュータ「HAL9000」に触発されて、独学でプログラミング言語を少しかじっていました。大学でプログラミングを学んでいたわけではないのですが、それが縁で日立電子に入社して、ミニコンピュータ「HITAC10」を使って、いまで言うシステムエンジニアのような仕事をしていたのです。まだ、コンピュータに手触り感があった時代でした。コンピュータ上で行う計算を高速化するためのアルゴリズムや、外部のアナログな機器を動作させる機械語をアセンブリ言語で書いたりもしていましたね。

坂村 機械語プログラムを人間が理解しやすいように記述するアセンブリ言語を扱えるのは、いまではハードウエアに近い領域の人に限られます。村上さんは、プログラミングを学生時代の独学やキャリアの初期段階で学んだことが、その後の大きな力になったのではないでしょうか。こうしたコンピュータの基本原理に近い部分を理解していれば、イノベーションにつながる新しい発想が生まれやすくなると考えています。本当はもっと早い年齢から学ぶのが望ましいのですが、大学においてもきちんとプログラミングを教えるべきです。

村上 ICT教育というと、タブレット端末を配ってICTを活用しようという教育が検討されていますが、私も、基本となるコンピュータプログラミングそのものを教えることが大切だと思います。

坂村 その後は、どうされたのですか。

村上 日立電子がミニコンから撤退することになり、ミニコンで世界トップクラスだったデジタルイクイップメント社(DEC)に移りました。米国の会社なのですが、当時の私は英会話講座のカセットを聞いても、中学1年生レベルさえ聞き取れないほど、英語はまったくできませんでした。それで、勉強法を試行錯誤して、まずスピードの速い英語を聞いて耳を鍛えてから、本来のレベルのレッスンに戻るというやり方で、1日3時間、3年間にわたって毎日勉強しました。その時の教訓を踏まえて、世界で活躍したいなら、英語「を」勉強するだけではなく、早いうちから英語「で」学べる環境をつくるべきだと訴えています。

東洋大学 情報連携学部等設置推進委員会 委員長
坂村健
専攻はコンピュータ・アーキテクチャー(電脳建築学)。1984年からTRONプロジェクトのリーダーとして、まったく新しい概念によるコンピュータ体系を構築し世界の注目を集める。現在、TRONはユビキタスコンピューティング環境を実現する世界で最も使われている組み込みOSとなっている

坂村 国内市場が縮小する日本は、国外に出ることがどんどん重要になるでしょう。東洋大学に2017年に新設予定の情報連携学部では、1年次にコミュニケーションのツールとして、プログラミングとともに英語力を徹底して鍛えたいと考えています。学部内には、情報連携エンジニアリング、情報連携デザイン、情報連携ビジネス、情報連携シビルシステムの4コースを設け、2年次で専門分野を学び、3年次以降は、他分野の人とコミュニケーションをとって「連携」を経験してもらいます。

村上 コース設計を見ると、ビジネスコースは会計学・経営学と、データサイエンスの文理両面を学べるようになっていますね。私も、理系学生こそが、社会の基礎をしっかり学ぶべきだと考えています。シビルシステムも、これからの時代に必要なスマート・コミュニティの実現につながるでしょう。いまのIT産業は、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI(人工知能)の3つがキーワードです。インターネットで生まれたビッグデータを分散処理して解析を高速化する技術に加え、これまでデータ解析で使われてこなかった非構造データの解析はAIによって発展しました。そして、これから本格的に始まろうとしているIoTは、さらに大量のビッグデータを生み出す……という具合にITの技術は互いに連携しあっています。新学部の名称を単なる「情報」ではなく、「情報連携」としたところは、さすがだと思います。

次ページ本質を理解して他分野と連携することが欠かせない
TOPICS
第1回 グローバル社会で必要な能力
■G&S Global Advisors Inc.
 橘・フクシマ・咲江氏
■東洋大学 学長
 竹村牧男
元ヘッドハンターが語るグローバルで究極的に求められる「インテグリティ」とは。
第2回 観光産業をリードする力
■東洋大学 教授
国際地域学部国際観光学科長
飯嶋好彦
外国人観光客に愛される国になるために、いま最も必要とされているのが・・・・・・。
第3回 プログラミング
■東洋大学情報連携学部等
設置推進委員会 委員長
坂村健
アイデアをかたちにするプログラミングスキルが、なぜ必須となっているのか。
第4回 コミュニケーション能力
■静山社 会長
 松岡佑子氏
■東洋大学 文学部 准教授
 大野寿子
ハリポタ翻訳者が語った異文化コミュニケーションで必要なこと。
第5回 グローバル化を牽引する大学の挑戦
■東洋大学 副学長
 髙橋一男
■東洋大学 国際地域学部
 教授 芦沢真五
アジアの大学生がダイナミックに動く時代のハブ大学を目指して。
第6回 リーダーシップ
■東洋大学 教授 今村肇
グローバル時代に求められるリーダー像「対話型インタラクティブ・リーダーシップ」。
第7回 異文化理解と自文化理解
■旭酒造 代表取締役社長
 桜井博志氏
■東洋大学 文学部 教授
 石田仁志
日本酒「獺祭」が世界で評価される理由には異文化と自文化への深い理解があった。
第8回 産業界が求める人財
■リクルートホールディングス リクルートワークス研究所 主幹研究員 豊田義博氏
■東洋大学 国際地域学部
 教授 芦沢真五
自らキャリアデザインを主導する「キャリア自律型人財」が求められるようになっている。
第10回 観光プロデュース力
■小西美術工藝社
代表取締役社長
デービッド・アトキンソン氏
■東洋大学 国際地域学部
 准教授 矢ヶ崎紀子
マーケティングの活用で、日本を訪れる観光客の満足度向上へ。
第11回 イノベーション力
■ラクスル 代表取締役
 松本恭攝氏
■東洋大学 国際地域学部
 教授 荒巻俊也
世界で活躍できるイノベーティブな人財の条件とは。成長する企業トップの思考をひも解く。
第12回 哲学的思考
■東洋大学 学長 竹村牧男
物事を深く掘り下げて考える「哲学的思考」がグローバル社会を生き抜く大きな力になる。
お問い合わせ
東洋大学
https://www.toyo.ac.jp/