行ってみなければわからないことがある。

一橋大学名誉教授。経営戦略、競争力、グローバル人材などが専門。上智大学外国語学部卒業後、バージニア大学大学院で経営学修士(MBA)、ハーバード大学大学院で経営学博士(DBA)を取得。マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務したのち、青山学院大学教授、一橋大学大学院教授、慶應義塾大学大学院教授を歴任。主な著書に『世界で活躍する人が大切にしている小さな心がけ』(日経BP社)、『グローバルキャリア』(東洋経済新報社)などがある。
フェイス・トゥ・フェイスの効用
国際会議などへ参加することも多く、年間に10回から12回くらいは海外に行く機会があります。夏は約2カ月、カナダで過ごすのが恒例になっているので、それも加えると年間4カ月くらいは海外で過ごしています。
インターネットなどを利用すれば、今はいつでも世界中の人とコミュニケーションできる環境があります。定例的な会議などは今、テレビ会議などで行っている企業も少なくないでしょう。気心が知れたいつもと同じメンバーで議題もはっきりしている会議なら、同じ場所に人が集まらなくてもいいかもしれません。
しかし、相手がどのような人なのかよくわからない初対面の方などの時は、やはり直接顔を突き合わせて話し合ったほうがいいと思います。私も最近ネットの会議システムを使ってミーティングをしたことがあるのですが、面識のない相手の方がどういうことを考えているのかよくわからなかったこともあり、話が広がらずに非効率なまま終始してしまいました。同じ場所にいて直接やり取りすればもう少しアイデアが出たのではないかと反省もしました。ブレーンストーミングのようなものも、やはり参加メンバーが同じ場所に集う意義は大きいと思います。
グローバル化が進んだ現在、都市の重要性が増しています。世界の人口のほぼ半分が都市に居住していますし、都市には多様な人間が集まり、機会も多く、いろいろな可能性がありますから、今後この比率はさらに高くなると予想されています。たとえば、シリコンバレーのような知やテクノロジーの集積したクラスターから新しいビジネスが生まれるように、さまざまな才能やアイデアが集積する都市こそがイノベーションの舞台になっていくのではないでしょうか。
今はインターネットがありますから、世界の最先端の動きを情報として知るのは簡単です。けれどもそうした都市のエネルギーやダイナミズムは、やはり実際にそこに行ってみなければ感じることはできません。しかもネットで調べたものと実際に行ってみるのとでは、得られる情報の量も質も違います。どういう時代でもその場に行って五感で感じることは、とても大事です。現場を知る、一次情報を知る、リアルタイムで知る、新しい動きや変化を肌で感じる。そのためにはやはり、行ってみることが必要です。
もちろん行く前にいろいろ調べておくことは必要です。でも、情報過多にならないほうがいいと思います。ましてステレオタイプの先入観は持たないほうがいい。「昔、行ったことがあるからあの国のことは知っている」と言い、実際に行った後も「やはりあの国はこうだった」と、自分が持っていたイメージを確認するだけの方をときどき見かけます。しかし、とくにアジアは若い人のエネルギーがすごく、どんどん変わっています。その国でビジネスをしたいのであれば、今何が起きているのか、あるいは何が起きそうなのか、人々は何を考え、どんなことに関心があるのか、どんなにおいがあり、どんな変化の兆しがあるのか、自分で感じることが大事です。