東洋大学

自文化に誇りを持ち、異文化に垣根をなくす 東洋大学

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東洋大学は、1887年に明治の哲学者・井上円了によって創立された約130年の歴史を持つ総合大学だ。哲学を建学の理念とする唯一の大学であり、近年では駅伝や水泳、陸上などの活躍からスポーツが盛んな大学というイメージも強い。一方で、2014年度には、我が国の高等教育の国際競争力の向上を目的に、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学を重点支援する、文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援 タイプB(グローバル化牽引型)」に採択され、2017年には新学部・学科の開設を構想するなど、グローバル人財育成の取り組みを加速している。そこで、ここでは 「世界で活躍できる人財の条件」と題し、グローバル社会で活躍するために必要な能力とは何か、どうしたら育てることができるのかを全12回の連載を通して明らかにしていく。
第8回は、酒造りの本質にこだわった純米大吟醸酒「獺祭(だっさい)」を海外展開する旭酒造社長の桜井博志氏と、近現代日本文学を研究する東洋大学文学部の石田仁志教授が対談。世界から高い評価を受ける「獺祭」の魅力と、自文化と異文化への理解を深める「国際文化コミュニケーション学科」の2017年開設を構想する東洋大学の取り組みを踏まえ、日本文化を海外へ発信する上で必要となる人財像を探った。

旭酒造 代表取締役社長
桜井博志
1948年に創業した家業、旭酒造に1976年入社。だが、酒造りの方向性や経営をめぐって先代の父と対立して退社し、石材卸業の櫻井商事を設立。1984年に父の急逝を受け家業に戻り、純米大吟醸「獺祭」の開発を軸に経営再建をはかる

石田 「獺祭」はとても美味しいお酒で、私は大ファンです。桜井さんの著書も拝読しましたが、「獺祭」は洗米を手作業で行うといった伝統を守る一方で、杜氏に頼らず、コンピュータを使ってデータによる管理を行うなど、革新的な手法を導入されているそうですね。

桜井 革新的に見えるかもしれませんが、それは自分が「美味い」と思うものを追求した結果であり、私自身は「美味しい酒を造る」という当たり前の、古典的な本質に回帰しているつもりです。戦後の経済発展に伴って農村は姿を変え、日本の伝統的な杜氏制度を維持するのが困難になっています。それならば、杜氏には頼らず、どうすれば質の良い酒が造れるのかを自分たちで徹底的に追求しようと考えました。

東洋大学 文学部 教授
石田仁志
東京都立大学人文科学研究科国文学専攻修了。文学修士。専門は日本文学。近代文学を中心に、川端康成とともに新感覚派として活躍した横光利一を研究。横光の『上海』研究を一つの足掛かりとして、戦間期の東アジアにおける日本語文学の展開について幅広く考察している

石田 確かに、日本酒や歌舞伎、能・狂言、あるいは現代の精密機械などに象徴されるように、日本文化の優れた点は「質」にあると思います。細部にまで気を配り、優れたものを探求するという「こだわり」が、日本文化の「質」を支えているのではないでしょうか。桜井さんは、「獺祭」をニューヨークやパリをはじめ海外展開されていますが、日本酒の魅力をどのように伝えていますか。

桜井 欧米人にとって日本酒は、理解しがたい「矛盾のかたまり」だといいます。日本酒の製造工程では、米のデンプンを麹で糖化させ、できた糖を酵母でアルコール発酵させます。その時、酵母にとって最適な温度(25度程度)よりずっと低温で発酵させるのですが、なぜわざわざ低温にするのか。また、糖化と発酵の過程を一つのタンクで行うのも、2つの過程を別々のタンクで行った方が合理的なのではないか。欧米式の合理的観点から見た日本酒は、多くの矛盾、疑問となる点を抱えています。しかしながら、欧米人への歩み寄りのきっかけとして使えるツールが「美味い」という万国共通の揺るぎのない感情です。そこをきっかけに、手間暇かけて優れたものを追求した結晶である日本酒、さらには「獺祭」の魅力を理解してもらおうと、日々情報発信を行っています。

石田 「獺祭」が世界で評価されている理由については、どのようにお考えでしょうか。

桜井 我々としては、まず「美味しい」ということ、そして、海外に売っていこうという強い意思があること、さらには、その国の人達に理解してもらえる言葉で説明すること、の3つにこだわりを持っています。それらを踏まえて海外へ情報発信してきた結果、例えばフランスでは、有名シェフが「『獺祭』を初めて飲んだ時に、合いそうな料理がいくつも頭に浮かんだ」と話してくれるなど、「獺祭」の魅力への理解が広がりつつあることを実感すると同時に、日本の文化である日本酒が海外でも通用する自信にもつながりました。

次ページ自分なりの根っこを持つことが大切
TOPICS
第1回 グローバル社会で必要な能力
■G&S Global Advisors Inc.
 橘・フクシマ・咲江氏
■東洋大学 学長
 竹村牧男
元ヘッドハンターが語るグローバルで究極的に求められる「インテグリティ」とは。
第2回 観光産業をリードする力
■東洋大学 教授
国際地域学部国際観光学科長
飯嶋好彦
外国人観光客に愛される国になるために、いま最も必要とされているのが・・・・・・。
第3回 プログラミング
■東洋大学情報連携学部等
設置推進委員会 委員長
坂村健
アイデアをかたちにするプログラミングスキルが、なぜ必須となっているのか。
第4回 コミュニケーション能力
■静山社 会長
 松岡佑子氏
■東洋大学 文学部 准教授
 大野寿子
ハリポタ翻訳者が語った異文化コミュニケーションで必要なこと。
第5回 グローバル化を牽引する大学の挑戦
■東洋大学 副学長
 髙橋一男
■東洋大学 国際地域学部
 教授 芦沢真五
アジアの大学生がダイナミックに動く時代のハブ大学を目指して。
第6回 リーダーシップ
■東洋大学 教授 今村肇
グローバル時代に求められるリーダー像「対話型インタラクティブ・リーダーシップ」。
第8回 産業界が求める人財
■リクルートホールディングス リクルートワークス研究所 主幹研究員 豊田義博氏
■東洋大学 国際地域学部
 教授 芦沢真五
自らキャリアデザインを主導する「キャリア自律型人財」が求められるようになっている。
第9回 連携する力
■前グーグル日本法人名誉会長 村上憲郎氏
■東洋大学 情報連携学部等設置推進委員会 委員長
坂村健
ITの変遷を身をもって知る二人がIoTからビッグデータ、AIまでITのいまを語る。
第10回 観光プロデュース力
■小西美術工藝社
代表取締役社長
デービッド・アトキンソン氏
■東洋大学 国際地域学部
 准教授 矢ヶ崎紀子
マーケティングの活用で、日本を訪れる観光客の満足度向上へ。
第11回 イノベーション力
■ラクスル 代表取締役
 松本恭攝氏
■東洋大学 国際地域学部
 教授 荒巻俊也
世界で活躍できるイノベーティブな人財の条件とは。成長する企業トップの思考をひも解く。
第12回 哲学的思考
■東洋大学 学長 竹村牧男
物事を深く掘り下げて考える「哲学的思考」がグローバル社会を生き抜く大きな力になる。
お問い合わせ
東洋大学
https://www.toyo.ac.jp/