大手メーカーが駆け込む金属加工会社の秘密 精緻なものづくりに挑む"文系女子"パワー
埼玉県所沢市。閑静な住宅街を歩いていると、目の前に不思議な建物が現れる。外壁はモノトーンで看板はない。ここが大手メーカーの”駆け込み寺”として躍進中の金属加工メーカー「井口一世」だ。
社員27人。直近の売上高は71億円(2015年3月期)。年10~15%のペースで着実に成長を続けており、今や顧客は海外にも広がる。創業は2001年で社名の「井口一世」は実は社長のフルネームだ。井口社長は「これなら逃げも隠れもできません」と笑うが、確かに一度この社名を耳にすれば誰もが忘れない。会社の成長を支えてきたのは、そんなユニークな発想だ。
ヨソにできないことがたくさんある
金属製品の大量生産には金型によるプレス加工が適しているが、実は金型の製造には高いコストがかかる。たとえばコピー機1台の金型を作る費用は約30億円だ。
それでも多くの金属製品で金型が必要とされてきたのは、安定した品質を保つのにベストな方法とされてきたため。ところが井口一世では、これまで金型を使って製造していた金属製品を「金型レス(金型なし)」で作り上げることができる。
それが”駆け込み寺”と呼ばれるゆえんだ。金型がなければ設計変更にも柔軟に対応できるし、少量生産品や試作品もコストを大幅に抑えて製造できる。修理部品の生産にも一役買っている。メーカーは販売を終了した製品でも、家電は7年、自動車なら15年もの間、修理部品を供給する義務がある。そのため、金型もメンテナンスしながら保管しておかなくてはならない。コピー機なら2000~3000点、自動車でも数万点におよぶ部品在庫とその金型の管理に膨大なコストをかけていたのだ。だが、「うちなら金型なしでも作れますから『量産した金型は捨てちゃってください』と言っている」(井口社長)。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら