世界のゴミ問題は「福岡方式」が解決している 120カ国に技術指導、愛され"ゴミ先生"の正体

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世界のゴミ問題に立ち向かうため、40年以上研究・実践を続ける人物が福岡大学にいます
アフリカのケニア。広大な土地に巨大なゴミ山がそびえ立ち、強烈な悪臭を放っている。さまざまな虫や鳥、動物が群がり、さらにはゴミを拾う人たちの姿も見られる。彼らは「スカベンジャー」と呼ばれ、ゴミの中から使える物を拾い、業者に売ることで生計を立てている。
そんなスカベンジャーの力を借りて、「福岡方式」で廃棄物処理場を世界各地に作り、現地の人たちに慕われる大学教授がいる。福岡大学工学部の松藤康司さん。40年にわたり地球のゴミ問題に立ち向かう松藤先生と、ケニアのプロジェクトを担当する国連ハビタットの星野幸代さんに話を聞いた。

 

――ゴミは私たちの生活に密着しているものの、注目されにくい分野ですね。松藤先生は、なぜゴミ問題に関心を持ったのですか?

松藤:特に興味はなかったんですよ。福岡大学薬学部に在学中、ゼミの担当教授から「工学部で水質分析ができる人を探している」と声をかけられ、たまたまゴミの研究を始めたばかりの工学部の花嶋正孝先生の実験室を訪れました。1970年のことです。当時の日本は、高度成長に伴って大量のゴミが出て、うまく処理できず山積みになっていた。そこに害虫や悪臭が発生し、問題になり始めた頃でした。

「ゴミ処理の研究に将来はありますか?」と花嶋先生に尋ねたところ、「明日のことはわからん。でも、ゴミ問題は誰かが取り組まなければならない」と。僕は明日さえわかないという言葉に大きなロマンを感じて、この世界に飛び込んだんですよ。普通なら不安で引くのに、変わってるでしょ(笑)。薬学から突然ゴミの研究に転身したことで、親から勘当され、まわりからは不思議がられましたね……。

1975年、世界の未来を変える技術が福岡で誕生

――当時、日本でゴミ埋立を研究する人はいなかったのですか?

松藤:焼却分野はいたけれど、埋立では花嶋先生がパイオニアです。ちょうど福岡市はゴミ埋立場からの汚水や臭気に頭を悩まされ、花嶋先生と市の担当者が出会ったことで官学の連携が始まった頃で。僕は助手になり、朝3時起床でゴミ処理場に通ってデータ収集に明け暮れる毎日でした。

たまたま見つかったネガティブデータ(失敗データ)に着目して追究した結果、準好気性埋立構造、通称「福岡方式」の基本概念にたどりつきました。そして1975年、福岡市に日本初の準好気性埋立場を開設しました。

――福岡方式とはどんなものでしょう?

松藤:福岡大学と福岡市が共同開発した、環境保全型のゴミ埋立技術です。埋立地の底に集排水管を通して外気を取り込むことで、土壌の微生物を活性化させて、廃棄物の分解を促進。これが排水の浄化につながり、温暖化に影響するメタンガスの発生も抑えられます。

また、竹やドラム缶など、現地で調達できる資材を使うことも可能であるため、低コストで建設・管理できるのも魅力です。つまり①高度な技術が不要、②低コスト、③地球にやさしい埋立方式なのです。

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