松下幸之助は「運命が90%」と考えていた そして「残る10%」が進む船の舵となる

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しかし、それならば、努力しなくてもいいのか。汗を流さなくてもいいのか。それもまた、間違いであろう。

「運命が90%だ、ということは残りの10%が人間にとっては大切だということになる。いわば、自分に与えられた人生を自分なりに完成させるか、させないかという、大事な要素なのだということや。ほとんどは運命によって定められているけれど、肝心なところはひょっとしたら、人間に任せられているのかもしれん」

日本人として生まれたのも、この時代に生まれたのも、決して自分の意思ではない。生まれた家も、環境も、いわば運命である。もっと恵まれた環境に生まれていれば、と思いたくなるときもある。しかし松下幸之助は、ほとんどなにも持たない境遇の中から出発して、大きな成功をおさめた。

「たとえば船があって、自分が大きい船か、それとも小さい船か。それぞれの人にとってそれはひとつの運命かもしれないが、肝心の舵のところは人間にまかせられている、ということやね。無事にその船が大海を渡り、目指す港に着くことができるかどうか。残りの10%がその舵の部分であるということやな」

鷹は鷹なりに、スズメはスズメなりに

鷹がスズメになろうとしても、スズメが鷹になろうとしても、それは運命であって、変えることはできない。そこは見極めなければならない。しかし、鷹は鷹なりに、スズメはスズメなりに一生懸命生きる努力はしなければいけない。そこに、それぞれがそれぞれなりの成功をする道も開けてくる。運命と努力とはそういうものである。

「だから、運命が90%だから努力しなくていいということにはならんね。けれども、努力したから必ず成功すると考えてもあかんよ。しかし成功するには必ず努力が必要なんや。

つまり、舵となる10%での人事の尽くし方いかんによって、90%の運命の現れ方が異なってくる。生き方次第で、自分に与えられた運命をより生かし、活用できるというわけやね」

松下は、物事がうまく運んだときは「これは、運がよかったのだ」と考え、うまくいかなかったときは「その原因は自分にある」と考えるようにしてきたという。これは人生の知恵として、理想的なバランスの取り方であると思われる。

自分の人生にはどうにもならない面があるとはいえ、おたがいにとって大事なのは10%の部分において精いっぱいの努力をするということである。そう理解していれば、自分に与えられた人生を謙虚に受け入れ、あくまで坦々とした大道を行くがごとく、力強く歩いて行くことができる。

誠実に努力を積み重ねていくことが基本であり、それを先行させることである。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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