与野党とも「第3の壁」を忘れるな

与野党とも「第3の壁」を忘れるな

塩田潮

 野田首相は5月下旬まで「無策で消極的な愚図のどじょう」という印象だったが、大きく舵取りを変えた。分岐点は5月30日、小沢民主党元代表と1回目の会談を行い、関西電力大飯原発問題でも閣僚会合で「私の責任で判断」と再稼働へ踏み出す姿勢を示した。

 以後、愚図から「猛進のどじょう」に大変身だ。
6月3日に小沢元代表との再会談で増税法案修正の与野党協議入りを通告、4日に内閣改造、6日に民主、自民両党が協議開始を決定、8日には大飯原発再稼働を表明、15日に法案の与野党合意成立に漕ぎ着けた。

 もともと増税の実現には、ねじれ下での野党の反対、民主党内の対立、国民の不支持という「3つの壁」の克服が必要だったが、首相は与野党合意成立でまず「第1の壁」は越えた。「政治生命を懸ける」と言った法案の今国会成立は、果たせる見通しが出てきた。

 そうなると、政界の空気も世論の流れも一変するという見方もある。増税法案を仕上げた野田首相は、「決まらない政治」を乗り越えた「実行力首相」という評価が高まり、内閣支持率も上昇する可能性もある。ひょっとすると、勢いに乗って、民主党代表選の前、延長国会の終了直前に衆議院解散というシナリオを描き始めるかもしれない。そのストーリーで谷垣自民党総裁との間で話ができているのでは、と深読みする人もいる。

 だが、狙いどおりにいかず、国会終盤は大荒れとなり、民、自両党の分裂や、大量造反による法案否決という反対の展開もあり得る。野田首相と谷垣総裁が党分裂覚悟で増税法案成立に突っ走れば、政界再編や増税勢力による新連立誕生という激動も考えられる。

 こうした話は、政界内の政治的な思惑や胸算用による政局展望で、それとは別に最後に民意という「第3の壁」が立ちはだかる。 永田町の政治家たちが「財政危機克服」を合い言葉に、政権運営の都合や権力欲、駆け引きや打算に目を奪われ、国民不在で突っ走れば、次の衆参の選挙で有権者の痛撃を食うだろう。

 増税は権力による国民からの新たな収奪だ。増税は不可避だが、政治の側は、もっと丁寧に、もっと慎重に、もっと控えめに、もっと思いやりをもって、国民の支持と同意の取り付けに努力すべきである。
(写真:梅谷秀司)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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