非正規雇用比率「4割大台乗せ」の正しい見方 背景に「高年齢者雇用安定法」の存在

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また、依然として企業が「賃金の節約」を非正規雇用の目的に掲げていることに大きな変化はない。これは、前回調査よりも5%割合を落としているものの、全体の38.8%と今回も非正規を利用する最大の理由となっている。非正規は、相変わらず企業にとって雇用調整の手段になっていることが分かるだろう。

高年齢者雇用安定法も、結局もともと正社員だった人だけが恩恵を受けられる仕組み。順調に正社員を続けてきた人と、レールから外れてしまい従来から非正社員だった人との間で、「非正規」の枠の中でも、格差が生じる状態になってきているということが、本質的な問題なのではないだろうか。

「限られた賃金原資を元正社員の高齢者に取られ、非正規の方はさらに追い詰められている。65歳までトータルで見たときの身分保障、生涯賃金格差は、ますます顕著になっているというのが現実。やはり、特権的な地位が法的に保障されている正社員と、不安定で保護が極めて乏しい継続的な非正規社員という、『労労対立』の問題を真剣に議論するべきだ」(倉重弁護士)

氷河期世代の非正規問題は、何も解決していない

正社員といっても、大企業で極めて安定的な身分が保障された人もいれば、実質的には労働法が守られていない「ブラック企業」のような会社にいる人まで様々であるから、正社員という枠組みで一律に区切ってしまうことには、もちろん議論もあるだろう。ただ、正社員の80%にはある退職金制度が、非正規では10%にも満たず、賞与についても正社員の86%にはあるのに非正規には31%しかない。そして、この数値は、正社員については前回調査より微増しているが、非正規は減少している。

佐々木弁護士も「非正規の立場は、制度上正社員より不安定であることは明らかである上、月々の賃金だけでなく、生涯収入にも大きく関わる格差が広がっている」と指摘する。10月10日配信の「中年フリーター」のあまりにも残酷な現実でも指摘されているとおり、新卒での就職活動で氷河期にぶつかってしまった世代が、非正規として追い詰められたまま歳を重ね、完全に取り残されているという現実は、確かに存在する。

4割という数字は一見するとインパクトが強いが、表面的にヒステリックな反応することは生産的ではない。真に解決しなければいけない課題は、まだ何ら解決していないということを、改めて認識することが重要ではないだろうか。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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