日本人は「限界費用ゼロ社会」を知らなすぎる 文明評論家リフキンが描く衝撃の未来

拡大
縮小

SUSTINAは衣類のシェアサービスで、月額5800円の料金を払えば、シェア用の再利用衣類の膨大な在庫に自由にアクセスできる。シブカサは東京の、傘シェアリングのウェブ・プラットフォームだ。にわか雨に見舞われた人は、このサイトのスマートフォン用アプリを利用し、この共有ネットワークに所属する最寄りのレストラン、店舗、劇場を見つけ、傘を借りられる。ユーザーは、このサイトに登録したほかのどの場所でも、あとで傘を返すことができる。

これらは、日々登場する新しいアプリの、ほんの数例にすぎない。このようなアプリは、提供者と利用者を結びつけて、いわば一つの社会的な大家族にまとめ、日本全国でモノをシェアできるようにする。

IoTは日本にとっても世界にとっても、現状を根本から覆すものだ。シスコ社の調査によると、IoTがもたらすグローバルな価値のうち、今後10年間における日本のシェアは7610億ドル(グローバルな価値の合計の5パーセント)になる見通しだという。その内訳は、市場での売買の時間短縮を含むイノベーションが2390億ドル、新たな顧客の獲得が2130億ドル、サプライチェーンとロジスティクスにおける無駄の削減が1810億ドル、資産活用コストの減少が820億ドル、労働効率の向上が残る460億ドルだ。

これらの数字が示す価値の増加は、しだいに自動化され、相互接続が進むスマート経済における、旧来の資本主義市場で達成されるだろう。だが、シスコ社の調査には反映されていないものがある。それは、成長する共有型経済においてIoTインフラが可能にする価値の増加だ。バーチャルな世界と従来型の経済の両方において、限界費用がほぼゼロでシェアされる無料の財とサービスの増加は、GDPの値に表れないものの、日本の膨大な数の人、とくに若いインターネット世代の生活の質を一変させるだろう。

IoTの世界と限界費用ゼロ社会における日本の将来を評価するにあたり、高齢化する人口がこの国の展望に与える影響をめぐって高まる不安を、無視するわけにはゆかない。労働人口が減れば必然的に日本の生産性が落ち、成長能力が損なわれるというのが一般的な見方だ。

だが、歴史の流れは人口動態で決まり、将来性があるのはつねに、人口再生産率が最も高い社会であるという考え方はもはや通用せず、高度に自動化されたスマート経済においては、人口動態あるいは人口再生産率は、経済的健全性の唯一の指標ではなくなるかもしれない。

歴史上の岐路に立たされている日本

第一次・第二次産業革命の両方で総効率と生産性を向上させた日本の幅広い歴史的経験は、日本が舵を切り、第三次産業革命を迎え入れるためのスマートIoTインフラへと向かううえで、強みとなりうる。資本主義市場と共有型経済の両方から成る、完全に自動化されたハイブリッド経済の創出は、極限生産性がもたらすものであり、今後、より少ない人口で比類のないほど質の高い生活を享受することを可能にしうる。

日本は今、歴史上の岐路に立たされている。もし日本が、汚染の根源、すなわち持続不可能な20世紀のビジネスモデルの特徴である、古いコミュニケーション・テクノロジーやエネルギー様式、輸送/ロジスティクスから抜け出せなければ、その将来の展望は暗い。

実際、日本は急速に零落して、今後30年のうちに二流の経済に成り下がるかもしれない。だが、日本がもし時を移さず起業家の才を発揮し、エンジニアリングの専門技術を動員し、それに劣らず潤沢な文化的資産──効率性向上への情熱や非常に意欲の高い未来志向の活力を含む──を生かせれば、限界費用ゼロ社会と、より平等主義的で豊かで、生態学的に持続可能な時代へと、世界を導くことに十分貢献できるだろう。

ジェレミー・リフキン 文明評論家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

Jeremy Rifkin

経済動向財団代表。過去3代の欧州委員会委員長、メルケル独首相をはじめ、世界各国の首脳・政府高官のアドバイザーを務める。また、合同会社TIRコンサルティング・グループ代表として、ヨーロッパとアメリカで協働型コモンズおよびIoTインフラづくりに寄与する。1995年よりペンシルヴェニア大学ウォートンスクールの経営幹部教育プログラムの上級講師。著書『ヨーロピアン・ドリーム(The European Dream)』はCorine International Book Prize受賞。広い視野と鋭い洞察力で経済・社会を分析し、未来構想を提示する手腕は世界中から高い評価を得ている。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT