日本人は「限界費用ゼロ社会」を知らなすぎる 文明評論家リフキンが描く衝撃の未来

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総効率と生産性の劇的改善──繰り返しになるが、日本の得意分野だ──のための、送電網のデジタル化の面でも、日本は前進している。日本は今後10年間に8000万台のスマート電力メーターを設置するという目標を掲げた。日本最大の公益企業である東京電力は、首都圏だけでも2700万台のスマートメーターを設置する計画だ。

経済産業省も、断続的な再生可能エネルギーの流入量増大対策として、電力網のデジタル化に約6億8000万ドルを投入することを決めた。経済産業省はまた、中小の企業や工場におけるエネルギー効率向上用機器の設置を奨励するために、さらに7億7900万ドルを割り当てた。これも、生産性を上げるためにたゆまず総効率を最適化する、日本の昔からの傾向を示す別の例と言える。

日本では、デジタル化されたコミュニケーション・インターネットと再生可能エネルギー・インターネットが一体化することで、GPS誘導型の自動運転輸送/ロジスティクス・インターネットの創出が可能になりつつある。電気自動車と燃料電池車による輸送への移行では、日本の自動車メイカーはドイツのメイカーと張り合っている。

トヨタは18年以上前、初のハイブリッド車プリウスを導入して競合企業の先頭に立ち、電気自動車輸送のリーダーとなった。今やトヨタとホンダと日産が手を組んで、水素燃料電池を搭載した自動車、バス、トラックを導入するための土台を築いている。これらの車両は、すでに生産が始まっている。

燃料電池車への移行を加速

日本政府は、持続可能性への傾倒をますます深める若い世代を引きつけようと、1台の購入につきおよそ2万ドルという巨額の補助金を出すことで、燃料電池車への移行を加速している。これに加えて東京都は2020年のオリンピックに向けて、燃料電池車への補助と、水素ステーション35カ所の建設のために3億8500万ドルを費やす予定で、これは2020年には路上に出ている見込みの燃料電池車6000台に対応するためだ。燃料電池車用水素ステーションの建設費の8割近くが、東京都の補助金で賄われることになる。

電気自動車と燃料電池車への移行は、輸送部門の改編を引き起こし始めている変動の一部にすぎない。日本の都市部でカーシェアリング・サービスが普及するにつれ、インターネットの使用に長けたミレニアル世代は、自動車の所有から移動手段へのアクセスへと急速に関心を移してもいる。カーシェアリング・サービスは、指数曲線を描きながら、芽生えつつある共有型経済で急成長している。2009年から2014年の間に、カーシェアリング・サービスの登録者数は、6396人から46万5280人に、カーシェアリングに供される自動車の数は563台から1万2373台に、それぞれ増えた。

日本の政府と輸送・物流業界はすでに、移動手段革命の次なる段階の計画を練っており、これは台頭してくる、デジタル化された輸送/ロジスティクス・インターネットでGPS誘導によって動く自動運転車の配備を伴うものだ。インターネットサービス会社のDeNAは、自動運転車テクノロジーを開発する日本の新規企業ZMPと提携し、自動運転車を日本の路上で走らせるためのジョイントベンチャーを展開している。

日本の主要自動車メイカーであるトヨタ、ホンダ、日産は、ドイツの自動車メイカーに後れをとっていることに気づき、自動運転車を商業市場に持ち込むために、今や自らも大急ぎで手を打っている。

限界費用がほぼゼロの再生可能エネルギーで動く自動運転の電気自動車や燃料電池車が、自動化された輸送グリッド上で稼働するIoTのスマート社会で十分な競争力を獲得することを願っての対応だ。2015年、日産は2016年から2020年の間に自動運転テクノロジーを市場に出すために、アメリカ航空宇宙局(NASA)と提携することを発表した。

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