米英で勢いを増す反動的な「社会主義路線」 労働党で起きた「反乱」が共和党でも発生

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来年の米大統領選の民主党指名を目指すヒラリー・クリントン氏の主要対立候補で、自らを社会主義者と堂々と公言するバーニー・サンダース上院議員は、最近の世論調査でクリントン氏に肉薄しているし、州によっては上回る支持を得ている。彼は自分の考えを率直に述べるのだ。

コービン氏に比べれば、サンダース氏は穏健だ。さらに重要なことに、過激な派閥が英国労働党に対して行ったのと同じことが今、民主党ではなく、共和党で起こっている。

共和党は今、政府の妥協を重大な裏切りの一つと見る狂信者らによる乗っ取りの危機にある。保守派の大御所、ジョン・ベイナー下院議長を辞任に追いやったことは、共和党員による自党への宣戦布告だった。

ニューディール政策も公民権の拡大も、まじめな白人キリスト教徒たちの平和を揺るがすことのなかった過去の出来事だ。彼ら強硬な共和党員もまた「信憑性」を何よりも優先している(ゆえにドナルド・トランプ氏が訴求力を持つのだ)。そして彼らもまた、党の指導者らに対する怒りで反乱を起こしている。

クリントン氏への支持は敵失の産物

共和党の指名を誰が勝ち取るのかを予測するには時期尚早だ。可能性は低いが、テッド・クルーズ上院議員のような強硬派や、あるいは強い宗教的信念を持つがずぶの素人である元神経外科医のベン・カーソン氏が党の支持を勝ち取ることもあるかもしれない。

いずれにしても、政党のトップに就くことは、米大統領に選出されることに比べれば容易だ。また、コービン氏が英国の国政選挙で勝利すると考えている人もごくわずかだ。だからこそ彼の政党は深い絶望にある。

クリントン氏は、これまでの選挙運動が振るわないにもかかわらず、また一般的に信憑性にかけるイメージ、あるいはずばり「ずる賢い」とのイメージを持たれているにもかかわらず、おそらく党の支持をかろうじて維持するだろう。だがそれは、彼女の考え方が労働党の中道左派の政治家たちのそれよりも説得力があるからでは決してない。対立候補があまりにひどいだけのことだ。

週刊東洋経済10月24日号

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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